3月6日てんでんこ 祭人「2」やっぺし

朝日新聞2019年2月28日3面:「虎舞やりてえ」。若者たちは避難所で演じる。子供たちには歴史を伝える。 岩手県大槌町は1万2千人の人口で20を超す郷土芸能団体がある祭り好きの町だ。青年たちに人気の「虎舞」の各団体は、東日本大震災後いち早く活動を再開した。「城山虎舞」の総会長、菊池忠彦(53)は、3日かけてメンバー約30人全員の無事を確認した。10日後、自宅を失った20歳前後のメンバーが訪ねてきて口々に言った。「虎舞をやりてえっす」
住民の約1割が犠牲になり、壊滅した市街地で家族が遺体を捜し回っていた。「こんな状況でできるか」と追い返しても、また来て訴えた。しばらくすると、避難所の男性から「やってくんねえか」と頼まれた。話を聞きつけて、隣の地区の「向川原虎舞」の若者も「一緒にやらせて」とやってきた。向川原虎舞の前会長、佐々木修一は、虎舞談議で菊池と飲み明かす盟友だったが、津波にのまれ、妻ともども行方不明だった。若者たちは言った。「修一さんがいたら『絶対やっぺし』と言います」 震災1カ月後の4月中旬、安渡地区の避難所前で虎舞が披露された。数百人が周囲を囲み、泣きながら声援を送る人もいた。
その後、町内の他の避難所でも様々な郷土芸能が演じられるようになった。菊地は町虎舞団体関係者17人の合同慰霊祭も企画した。「普段どうりが一番喜ぶだろう」と、参加者は遺影が並ぶ前で一心不乱に演じた。城山虎舞創設時から笛を吹く吉田秀樹(49)は震災で両親を失った。「頭の中が真っ白」だったが、菊池に誘われて8月の復興祈願イベントから復帰した。「仲間といると気が張れる。家族を亡くしたのは俺だけじゃない。虎舞で少しでも慰めたいと思った」
大人たちに前を向かせるとともに、ふるさとを失った子供たちの学びにも生かせると菊池は考える。2年前から小中一貫校の町立大槌学園で講師を務め、団体名に残る古い地名、踊りの起源や言い伝えなどから、失った町の歴史をひもとく。そして「郷土芸能に入れば、昔を知る大人と話す機会ができる。かだって(参加して)」と声をかける。町内では同じ小中一貫校の町立吉里吉里学園が「必修科目」で発表会を開き、大槌学園は児童・生徒の半数が郷土芸能に関わる。なかでも多くの子供たちが参加する「城内大神楽」の結束力は強かった。(東野真和)

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