9月7日 小さないのち みんなで守る【1】

朝日新聞2017年9月3日31面:SOS出せず わが子置いた 生活苦しく児相の前に2度 今年1月、前橋市の児童相談所前に生後間もない赤ちゃんを置き去りにしたとして、母親の女性(27)と内縁関係にある男性(34)がともに逮捕された。だれかが救いの手を差し伸べることはできなかったのか。▽1面参照
裁判や関係者への取材によると、2人は約6年前に出会い系サイトを通じて知り合った。同居後、男性は仕事を辞め、女性は風俗店で働いて暮らしを支えた。女性には軽度の知的障害があった。大人になってから実家とも疎遠になっていたが、「何社か(採用試験に)すべって自信をなくしてしまった」(裁判での供述)という。2011年、最初の妊娠をした。妊婦健診は受けず、病院に飛び込みで出産した。赤ちゃんは児相に預けられた。
その後、生活に困り、インターネットカフェなどを渡り歩くように。生活保護を受けようと女性が市役所を訪ねたこともあったが、必要と言われた種類がそろわず、申請できなかった。15年、気をつけていたつもりだったが、第2子を身ごもった。今度は病院や児相には相談しなかった。第1子の時、養育費を支払うよう児相に言われたことが気になっていた。秋の夜、産気づいて公衆トイレに行こうとして間に合わず、橋の上で産み、翌朝、前橋市の児相前に置き去りにした。
そして第3子。公衆トイレで出産し、役半日後、児相前に置いた。15年の置き去り後、児相に設置された防犯カメラには女性の顔がはっきりと映っていた。
「誰にも相談できなかったんだ。つらかったね」逮捕後、面会した精神保健福祉士の原島久美子さん(48)が声をかけると、女性は涙を流した。裁判で女性は、第2子や第3子について児相などに相談しなかった理由を「1人目を施設に預けていて、頼みづらかった」と述べた。「頼れる人がいなかった。(児相前に置いたのは)早く誰かに見つけてほしかったから」とも。
「被害児が強い苦痛を負ったことは容易に推察できる」。今年6月、子ども2人を遺棄した罪で、ともに懲役3年執行猶予4年の有罪判決が言い渡された。2人は逮捕後、弁護士や精神保福祉士らでつくる「ぐんま・つなごうネット」の支援を受けた。女性は判決後、知的障害者のための施設で暮らし、自律した生活を送れるよう準備を進めている。男性も出所者らの社会復帰を支援する施設に入った。3人の子どもたちは、施設や里親のもとで育てられているという。
原島さんは言う。「人に相談することに慣れていない人が、行政などに自分から話をするのは難しい。児相の前まで赤ちゃんを連れて行ったのは、彼女なりの精いっぱいだったと思う」(塩入彩)
相談できぬまま 失われた命 西日本の山沿いの町。道路沿いの雑木林に、紙の米袋が捨てられていた。昨年6月、不法投棄物を回収していた男性が通報。見つかったのは女の赤ちゃんの遺体だった。翌月、雑木林から車で約20分のところに住む30代の母親が死体遺棄容疑で逮捕された。母親の自宅倉庫から、前年に生まれた「姉」の遺体も見つかった。
裁判記録や自治体の検証などによると、母親は既婚だったが、家計が苦しく、夫に「もっと話を聞いてほしい」と思っていた。「生活から逃げたい」と、出会い系サイトで知り合った男性と性交渉を重ねた。妊娠に気づいたが、離婚を恐れて家族に相談できず、「引き取ってくれる人がいれば」と思っていた。
母親は、インターネットで、自分が住む自治体名と「養子縁組」と入力し、何度も検索。児相のHPも見たが、相談しなかった。児相が赤ちゃんを保護してくれることを知らなかったという。今年1月、姉妹の死体遺棄罪で、懲役2年6ヵ月保護観察付き執行猶予4年の有罪判決が確定した。再発防止のため姉妹の死を検証した県の報告書は、相談窓口が十分に知られていなかったことなどを課題として指摘。県は今月1日、検討会を立ち上げた。県の担当者は「母親が相談してくれれば救えた可能性もあった。困っても相談に来ない人をどう見つけるかが課題だ」と話す。(長富由希子)


妊娠の悩み相談 声かけ活動課題 予期せぬ妊娠をしても、児相や病院など、どこかに相談しうれば何らかの支援につながり、赤ちゃんが遺棄される事態は防げる可能性が高い。だが、東京・渋谷など街頭で若者に声をかたり、若い女性からの相談に乗ったりしているNPO法人・BONDプロジェクト代表の橘ジュンさん(46)は、困難な状況なのに自分からSOSを出せない女性たちを多く見てきた。
「『自分を否定されたくない』などと、相談に抵抗を感じる女性がいる。彼女たちが抱える背景を理解し、時間をかけて信頼関係を築いていくサポートが必要です」妊娠で悩む人たちに対し「待ち」の姿勢ではなく、積極的に声をかけ、SOSに手を差し伸べる「アウトリーチ活動」は、一部の民間団体などにとどまる。昨年のい児童福祉法改正では、医療機関や学校などに対し、支援が必要と思われる妊婦を見つけたら市町村に知らせるよう努力義務を課した。妊娠相談の専門員を病院などに置くモデル事業も今年度、6自治体で行う予定だ。大阪母子医療センター(大阪府和泉市)は、匿名で妊娠相談を受け、病院や行政への相談に付き添う活動などを始めた。
同センターの相談窓口「にんしんSOS」では、年間1千人以上からの相談に応じる。その結果、妊婦健診を受けない「飛び込み出産」や生後すぐの虐待死亡を防げたとみられるケースは、昨年度末までに289件あったと分析する。
全国妊娠SOSネットワークによると、自治体の委託などによる妊娠相談窓口は年々増え、全国で40カ所ほどあるという。同ネットワークの佐藤拓代代表理事(65)は「すべての窓口で十分な対応ができているとはいえない。民間団体と連携しつつ、国として相談やアウトリーチによる支援を行う必要がある。性教育も十分にできているとはいえない」と訴える。(塩入彩)

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