9月30日 ピケティコラム 仏の労働法改正

朝日新聞2017年9月21日17面:企業の民主主義 進めてこそ フランスのマクロン政権が打ち出した労働法の改正は、どう評価すべきだろうか。柱となる政策は、すでに強く批判されているように、不当な解雇に対する賠償金に上限を定めるものだ。その上限は、勤続年数1年ごとに給与1ヵ月分(勤続10年を超える部分は0.5カ月分)だ。つまり、雇用主は勤続10年の従業員を自由に解雇でき、「現実かつ重要な事由」を証明する必要もない。裁判官も、給与10カ月分以上の賠償金を雇用主に課すことができない。また、勤続30年の従業員の場合、賠償金の上限は20カ月分になる。
問題は、解雇の社会的な費用は、失業手当や再就職のあっせんなどに伴う費用を考えると、大抵はかなり高くつくことだ。今回の法改正は、雇用促進の強化を掲げるが、間違いなく雇用主に解雇へのお墨付きを与える。恣意的に解雇できる権力を強める恐れもある。従業員に不信感が広がり、長期的に仕事に力を注ぐことなど期待できなくなる。さらに、賠償金に上限額がない、ハラスメントや差別(を理由とする不当な解雇)を問題にする訴訟は、増えるはずだ。裁判の手続きを迅速化したほうが、まだ役に立った。フランスの裁判はかなり時間が掛かるのだから。
最も残念なのは、政府がこの法改正を機に、企業統治へ従業員の参加を促さなかったことだ。もし今回の法改正で、フランス民主労働組合が求めたように、役員会で従業員側のポストを大幅に増やしていたら、もっとバランスがとれていただろう。経済における民主主義を進める、真の欧州型モデルになり得たはずだ。
時間をさかのぼってみよう。株式会社における株主と従業員の影響力を定める規定は19世紀に決まり、決定的に動かないものになったとの思い込みが時折見られる。1株=1票、という考えだ。ところが事実はまったく違う、1950年代には、ドイツ語圏の国々や北欧諸国で、この力関係を根本的に変える法律が導入された。目的として掲げられたのが、「共同決定」の促進だ。つまり、資本家と労働者の間で、本当の意味で影響力を共有することだ。
その後、こうした規定は何十年もかけて補強されていた。現在、ドイツの企業では役員会のポストの半数を、スウェーデンでは3分の1を、従業員の代表が占める。株式を持ち、資本に参加しているかどうかとは一切関係ない。この規定により、ドイツやスウェーデンの企業で、従業員が企業の戦略に深くかかわるようになったことは衆目も一致するところだ。最終的には、経済的、社会的な効果を大幅に向上させた。
ただ、残念ながら、このおような民主化の動きは、思ったほど他国には広がらなかった。特にフランス、英国、米国の企業では長い間、従業員が担う役割は、単に助言するだけに過ぎなかった。2014年に、フランスでは法律で初めて、議決権を持つ役員ポストが従業員代表に割り当てられるようになった。とはいえ、12のポストのうち一つ、というわずかな数にとどまっているが。米国と英国では相変わらず、株主がすべてのポストを握る。ただし英国では、労働党のみならず保守党の一部の後押しもあり、議論が高まりつつある。
もし、フランス政府がこうした動きをさらに進める決定をしていたなら、つまりドイツや北欧に追いつくために、役員会のポストのうち3分の1から2分の1といった相当な数を従業員代表に配分していたら、大きな手柄になっていただろう。新しい世界標準を推し進め、より大きな意味で言えば、経済・社会分野における真の欧州主義とは何かを示すことができたかもしれない。従来、欧州連合(EU)の特徴を表してきた「自由で公正な競争」という原則は、ほとんど宗教のように神聖視されてきた。しかし、それよりもはるかに興味深いものだし、想像力に富んだものだと思う。
欧州の研究者たちによる最近の研究によれば、ドイツ・北欧式の「共同決定」の手法は、完成にいはなだほど遠い。このモデルからもっと先へと進み、改善される余地がある。株主に指名された取締役と従業員代表の取締役とが対立する、時に不毛にも見える役割分担を脱するためには、どうすればよいのか。ユアン・マクガヒーは役員会のメンバーを、株主と従業員が共に参加する総会で選ぶことを提案する。取締役たちは、多様な希望を組み込んだ行動計画を支持するようになると考える。
一方、イザベル・フェルラは、完全な二院制を企業内に導入するアイデアを推す。株主によると役員会と従業員による役員会の合意をもとに、両者が同じ戦略上のテーマや決定を採用する義務を負う。ジュリア・カジェが提案するのは、大口株主や(インターネット上で資金を集めて企業に提供する)「クラウドファンダー」の議決権を増やすことだ。もともと非営利メディア企業のために考案されたモデルだが、その基本は出資する金額と議決権が比例しないことにある。これは、非営利メディア企業以外の分野にも応用できるだろう。
これからの研究には、一つの共通点がある。どれも、(会社内で意思決定をする実権としての)権力と、(株式保有のあり方という)所有の関係に、再考を促している。ソ連崩壊以降、「しばらく消えたと思われてきた問題だ。ただ、まだこの再考は始まったばかりだ。欧州とフランスは、ここでふさわしい地位を自ら築かねばならない。(©Le Mondoe、2017)(仏ルモンド紙、2017年9月10-11日付、抄訳)

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