9月23日「家計」疑惑①

東京新聞2017年9月17日1面・27面:始まりは15年4月2日 急きょ東京出張の日程が変更になった。2015年4月2日夕。帰りの航空機の便を遅らせて、愛媛県今治市の職員が首相官邸を訪れた。待っていたのは、柳瀬唯夫首相秘書官(当時)。県職員と学校法人「家計学園」(岡山市)の幹部も同席して場で、県と市に学園の獣医学部新設を進めるよう対応を迫ったという。
柳瀬氏は、安倍晋三首相が創設した国家戦略特区を担当。アベノミクスの恩恵を全国に波及させるとして、地方創生につながる特区提案を近く募ることになっていた。市の文書には、この日の午後3時~4時半、「獣医師養成系大学の設置に関する協議」のため、市の担当者が官邸を訪問した出張記録が残る。
しかし、今年7月、国会の閉会中審査で、官邸での面会の事実を問われた柳瀬氏は「記憶にない」を連発。かたくなに面会を否定する政府に対し、県幹部も苦言を呈する。「何で国は隠すんですか」
官邸訪問から2カ月後、県と市が国家戦略特区に提案すると、10年にわたって膠着していた獣医学部の計画が一気に動きだす。政府関係者は言う。「4月2日が『家計ありき』のキックオフだった」
おごりと慢心。「官邸主導」の政権運営にほころびが見え始めた。加計学園の獣医学部新設を巡っても、国民の疑念に答えようとしない安倍首相への不信感がくすぶる。「加計疑惑」の背景を検証する。


もろ刃の「安倍特区」 昨年11月5日、愛媛県今治市の菅良二市長が地元の嫌疑6人を市役所に呼び出した。「特区を使って獣医学部の話が前に進みそうだ」。菅市長は意気揚々と切り出した。市の担当者らが、首相官邸で柳瀬唯夫首相秘書官(当時)と会ってから1年半後のことだった。政府は同9日、国家戦略特区で獣医学部新設の方針を決めた。市と県は2007年以降、構造改革特区に提案し続けたが、10年にわたって厚い壁に阻まれてきた。「四国新幹線と同じ。夢物語としか見ていなかった」。福田剛県議は、配られた資料に「平成34年4月開学」と明記されていたことに目を見張った。
獣医学部新設が動き出すきっかけとなった国家戦略特区は、第二次安倍政権の目玉政策。これまでの構造改革特区は、自治体などの提案に対し、規制官庁も認定の可否に関わり、思うような成果が上がらなかった。そのため、規制官庁の関与は意見を聴くなどの調整にとどめ、首相のトップダウンで抵抗の強い岩盤規制の突破を図った。
規制改革の実効性が高まる半面、権力の私物化を招きかねない。国会では導入を巡り、「あらぬ国民の疑念を招くのでは」と制度の危うさが指摘されていた。
その懸念が現実になった。「友人のために便宜を図り、行政手続きをゆがめたのでは」。特区で獣医学部新設が認められた学校法人「加計学園」の加計孝太郎理事長と、特区選定の最高責任者である安倍晋三首相が昵懇だったことから、国民の間に疑念が膨らんだ。
米国留学時代に知り合ったという二人。安倍首相は「加計さんが私に対し、地位や立場を利用して、何かを成し遂げようとしたことはただの一度もない」と答弁している。しかし、周辺の人たちの証言から浮かび上がるのは、二人の公私にわたる蜜月ぶりだ。
政権交代が起こった09年夏の衆院選直前。学園が、若手職員を出張命令で安倍陣営の選挙応援に動員させようとしているとの情報が流れた。学園の労働組合の元幹部によると、組合が文書で抗議した結果、学園は有給休暇を使って職員が自主的に選挙応援に参加したという。
学園は「出張命令で派遣した事実はない。有給休暇の利用は選挙運動への参加など職員によってさまざま」とし、安倍首相の事務所は「公職選挙法に則り、適正に処理している」とコメントしている。
獣医学部新設に関し、安倍首相は「国民から疑念の目が向けられるのはもっともなこと」と言葉足らずを釈明しているが、国民の疑問に答えたとは言い難い。
「事業者が決まった今年1月20日に加計学園の獣医学部計画を知った」。7月の国会の閉会審査で、疑念を振り払おうと安倍首相が発した一言は、かえって不信感を高めた。
第二次政権発足後、確認できるだけで二人は、16回ものゴルフや会食を重ねている。「腹心の友」と公言する加計氏の計画を知らなかったのか。
首相に近い自民党議員は言う。「首相の説明は、説明になっていない。この問題を解決するには、正直に話すしかない」 (この連載は、中沢誠、望月依塑子、清水祐樹、原昌志、藤川大樹、土門哲雄が担当します)

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