9月18日てんでんこ 音楽の力【19】

朝日新聞2017年9月15日3面:「うつむくなわらえ」。水前寺清子のマートが世代や国境を越えていった。 2016年7月、熊本出身の歌手、水前寺清子(71)は迷っていた。熊本地震から3カ月近く経つのに、避難所への慰問や被災地でのチャリティーへの参加はゼロ。熊本の景色は一変し、芸名の由来である水前寺公園(熊本市)の湧水も干上がった。「何かしなくては」という気持ちと「ふるさとゆえの妙な気恥ずかしさ」が戦っていた。地震後も度々帰省はしている。生まれ育った下町の商店街では、「民ちゃん」と本名の民子で声をかけらる。ありのままを受け入れてくれる場所。だからこそ、東北の被災地では言えた「がんばろう」が出てこない。
そんなとき、電通九州(福岡市)のCM制作者、和久田昌裕(38)から提案があった。地震から半年の10月14日を機に熊本県が配信する動画「フレフレくまもと!」への出演だ。代表曲「三百六十五歩のマーチ」に合わせ、コロッケ、くりぃむしちゅー、高良健吾ら熊本出身者が、被災者と歌って踊るという内容だ。「皆でやることに加勢するのなら・・」。気が楽になり参加を決めた。
だが、「熊本バージョン」として、電通の若手が最後で「うつむくなわらえ」と呼びかける部分だ。被災者に対して酷ではないか。気になりながら、10月初頭、撮影場所の熊本城の広場に向かうと、お年寄りから子供まで約400人が振り付けを覚えて待っていた。被災したばかりなのに、みんな歌詞の通り前向きに歌と踊りに取り組んでいた。
伴奏がとまり、全員の手拍手だけが響く中、最後に、原曲の歌詞「休まないで歩け」に続けて「うつむなわらえ」とみんなで声を重ねた。新旧の歌詞が融合し、会場全体を鼓舞しているように感じた。
「早く素直になればよかった」。撮影が終わると、うっすら涙が浮かんでいた。ネット上では「楽曲の持つ力を感じた」「勇気が出た」との感想があふれた。
その年の11月13日、水前寺はニューヨークでチャリティーライブに臨み、日系の小中学生の合唱団と「三百六十五歩」を歌った。日本語も話せない子供が熊本のために歌った。一つの歌は世代や国境を越え、心の壁も壊す。「今の私があるのはこの歌のおかげ。その歌がふるさとを元気づけるなんて、なんと不思議な縁でしょう」
(大畑滋生)

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