9月14日 小さないのち みんなで守る【6】

朝日新聞2017年9月9日38面:捨てずに預けた母に感謝 失われたかもしれない命が、米国では次々と救われている。育てられない赤ちゃんを匿名で預けることができる「赤ちゃん安全保護法」が全米各州に広がる。2001年に法律ができた先進州のひとつ、カルフォルニア州を訪ねた。ロサンゼルス郊外。消防士で救急救命士のジェイ・ディベンポートさん(54)あ、16年前のことを今もはっきりと覚えている。「赤ちゃんを渡したい」という女性がショッピングセンターの駐車場にいるとの連絡があり、急行した。待っていたのは30代なかばの白人女性。緊張し、警察に通報されないかと警戒しながら言った。「赤ちゃんを渡せる制度があることを知った。名前は言わなくていいんでしょ」「僕らは助けるために来たんです」。ディベンポートさんらが優しく語りかけると、女性はやっと落ち着き、話しだした。結婚してすでに3人の子どもがいること、貧乏で4人目を育てられないこと・・。
女性は、車の後部座席に乗せていた生後まもない女の子の赤ちゃんを少し寂しげな表情で手渡しした。法律に基づき、母親は名前を名乗る必要はなく、刑事責任も問われない。「法律ができる前は、仕事柄、家の風呂場で産み捨てられて死んだ赤ちゃんを見た。この子も捨てられていたかもしれない。赤ちゃんの将来が救われたと思うとうれしかった」。ディベンポートさんは振り返る。マディソンと名付けられた赤ちゃんはいま、16歳の高校生になった。
育ての親は、ミッシェル・ドーティーさん(45)と夫ダレンさん(45)。子どもがなかなかできずに養子縁組を望み、6ヵ月の研修を受けて待っていると、赤ちゃんが保護されたと連絡があった。実母が薬物を使っていたようで、血中に薬物反応があったと聞かされたが、迷いはなかった。
マディソンさんには、保護された経緯を4歳のころから話してきた。「海の母に感謝している。あなたの命を救ってくれ、生きるチャンスを与えてくれた。お母さんは勇気ある尊い選択をした」マディソンさんの弟(12)も生後13カ月で養子にきた。末の弟(7)は両親の実施だが、分け隔てなく育てられてきた。
マディソンさんは8歳のころ、捨てられて死亡した赤ちゃんの葬式に参列したことがある。「保護されなかったら、私はこうなっていたのかな」と思ったという。「父母や弟に会いことができ、感謝の気持ちでいっぱい」。そう言って、にっこり笑った。
赤ちゃん救う米法律 赤ちゃん安全保護法は1999年にテキサス州で制定後、全米50州と首都ワシントンDCに広がった。「捨て子救済財団」の集計によると、これまでに約3350人が保護されたという。カルフォルニア州では、出産から72時間以内なら消防署か病院に赤ちゃんを預けることができる。赤ちゃんの将来を考え、生まれたときの状況や家族の病歴などを聞かれるが、何も答えなくても構わない。虐待の疑いがある場合は匿名で預けることはできない。
預けられれば、養子を希望する家族との縁組の手続きに入る。ただ、母親らが自分で育てたいと思い直した場合、14日以内なら申し出ることができる。同州では01~15年に計769人がこの制度で保護された。
州によっては預けられる期間が生後3日~1年と幅があり、預け先が病院だけのところも。同財団創設者のドーン・ゲスラさん(71)は「育てようと思ってもうまくいかない母親らを守るためであり、赤ちゃんの虐待死を防ぐ意味もある」と話す。共通のスローガンは「No Shame、No Blame、No Names(恥じることなく、避難されず、匿名で)」だ。
日本では熊本市の慈恵病院が赤ちゃんを匿名で預かる「こうのとりゆりかご」を開設するが、「無責任な親が増える」「子どもの出自を知る権利を阻害する」といった意見も根強い。そのことを伝えると、ゲラスさんは言った。「遺棄したり、虐待したりするより、安全な場所に預ける方がより責任ある行動だ。出自を知る権利も大切だが、生きる権利の方が先です」(編集委員・大久保真紀)

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