9月10日 あなたは誰 知られぬまま 

朝日新聞2019年9月7日夕刊7面:戸籍はなく生活保護受給10年「清川秀樹」行政上の存在なし 東京都渋谷区の病院で6月、1人の男性が亡くなった。名前はあるが、戸籍も住民票もない。警視庁と区が生前の男性の話をもとに身元を調べたが、役所の該当は「なし」。いったい「誰」だったのかー。区によると、男性は2009年6月10日に区内で倒れて緊急搬送された。「清川秀樹」と名乗り、自称1961年生まれ。糖尿病や慢心心不全を併発していたという。内縁関係にあった女性と十数年同居していたが、入院を機に関係が絶たれ、身よりもない。「急迫した状況」の場合、戸籍や住民登録がなくても生活保護が受けられる。区は受給を認めた。区の聞き取りに、清川さんは淡々と経歴を話した。それによるとー。本籍地は愛媛県北宇和郡吉田町(現・宇和島市)。両親と姉の4人家族だったが、小学5年の時に両親が離婚し、母方の実家がある福岡市へ移った。福岡の学校を出て東京の電子専門学校へ。東京・四谷や渋谷でバーテンダーをし、福岡で7年ほど冷凍食品会社に勤めた。雀荘の「打ち手」やスナック勤めをし、大阪、東京へ・・。情報を元に区が調べたところ、学校などが実在したことは確認できた。しかし、役所などに照会しても清川さんの該当はなく、両親の氏名も記録もなかった。「清川秀樹」という人物は、行政上存在しない。そう本人に告げると、首をかしげるだけだったという。清川さんは携帯電話を持っていた。番号の登録は1件。東京都台東区の更生施設で出会った男性(64)だった。清川さんは渋谷区から施設を紹介され、10年4月から入居していた。男性に会って話を聞いた。清川さんとは施設の休憩所で缶コーヒーを片手によく語らった。共用テレビではスポーツのほか、社会ニュースを好んで見た。「知的な人で、海外や政治のことを教えてくれた」ただ、家族のことになると、「父親を恨んでいる。二度と会いたくない」と言い、男性もそれ以上は聞かなかった。清川さんは12年4月、腎臓機能障害の障害者手帳の交付を受けた。市区役の場合、生活保護受給の証明があれば手帖は交付される。障害者加算金と生活保護で毎月計約19万円を受け、12年末、戸籍や住民票なしでも入れる同区代々木マンションに移った。男性が訪ねると、マンションの居間には本が山積みにされていた。村上春樹や北方謙三の小説のほか、時代劇を好み、「鬼平犯科帳」を読破していた。自由に出歩くのも難しい状態のため、男性は食事や日用品の買い物をした。携帯電話も渡してあげた。マンションの関係者によると、住んでいた6年余りの間に、清川さん宛ての郵便物は一つもなかったという。清川さんは持病が悪化し、今年3月に救急搬送された。男性は月2回ほど見舞いに行った。清川さんは「ずいぶん迷惑をかけたなあ。俺は東京オリンピックなで無理かも知れない」と言った。6月25日朝、亡くなった。死後、病院から「戸籍がない」と相談を受けた警視庁原宿署が、身元特定の手がかりを求めて指紋やDNA型を照会したが、該当はなかった。内縁関係にあった女性らからも聞き取ったが、生い立ちはたどれなかった。区の担当者は「清川さんは教育を受けてきたとみられ、話した経歴には信頼性があった。警察でも判明しないとは」と話す。清川さんの遺体は、身寄りのない人らを引き取る社会福祉法人に引き渡され、火葬された。遺骨は今、都内の納骨堂にある。原宿署(03.3408.0110)は8月5日、清川さんの顔画像を公開した。(高島曜介)

 

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