9日 首長と震災 被災自治体の6年【中】

朝日新聞2017年3月6日3面:高台移転 速さ最優先 大規模事業を進める宮城・東松島市長 航空自衛隊のブルーインパルスが所属する基地は、宮城県東松島市にある。6年前、海岸沿いの市街地を津波が襲い、1134人が死亡した。いま、被災地で最大規模の高台移転が進む。基地から車で10分ほどの野蒜(のびる)地区。被災地最大の高台移転は、計画人口1370人。復興庁から「まちづくりトップランナー」に認定され、昨年11月に宅地の引き渡しが終わった。
市長の阿部秀保(61)はスピードにこだわった。「話しがあるんです」2013年6月、阿部は復興庁宮城復興局の局長室を約束なしで訪れた。当時局長だった沢田和宏(60)と向き合うと、上着から「辞職願」と書かれた白い封筒を抜き出した。「工期が遅れたら住民との約束違反です。職を辞して謝るしかない」 当時、現場の土砂が運び出せず2カ月ほど工事が止まっていた。山を削るのに東京ドーム2.5杯分の土砂が出る。要望したのは土砂を運び出す全長1.2キロのベルトコンベヤーだ。事業費は100億円。復興庁は難色を示していた。
高台移転は、震災のわずか2カ月後に12地区の行政区長が「早く決めないと住民が散り散りになる」と望んだものだ。自分を辞めさせれば復興庁に傷がつく。そう踏んで賭けに出た。
局長の沢田は「早急に整理します」と応じ、国土交通省の担当課長に電話した。2カ月後、ベルトコンベヤーの導入が決まった。「スピードを金で買った」と阿部は言う。事業費は全額国費で630億円。計画戸数は448戸。単純計算で1戸あたり1億4千万円になる。
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高台はもともと、特別名勝松島の一角だった。 震災の48日後、ヘリコプターで野蒜地区を視察した当時の文化庁長官、近藤誠一(70)は、一面に広がる水面に家々の屋根が点々と浮かぶ光景を覚えている。その視野に高台が入った。「あそこしかない」 近藤の独り言を、同乗した市長の阿部は聞き逃さなかった。「住民懇談会を始めますよ。いいですね」 時間が経つほど民意がまとまりづらく、避難先の生活に慣れて、本格的な生活再建が遅れる。当時、国土交通省都市・地域整備局長だった加藤利男(64)は「スピーディーに各地の計画をつくるように口を酸っぱくして言った」と語る。野蒜地区には高台移転を望まない住民もいた。一部は「いまの場所に住み続けたい」と要望書をまとめた。その数636人分。
しかし、市は地区の津波浸水域を災害危険区域に指定。自宅の再建には、1階の床面を道路から1.5メートル以上高くすることを義務づけた。要望書を出した男性(68)は「市のやり方は半強制的だ」と批判する。被災3県では新しいまちが出現しつつある。高台移転と土地のかさ上げによる宅地造成は1万9385戸が計画され、3月末までに69%が完成する。災害公営団地も含めると、投じられた国費は2兆円。復興庁の前事務次官の岡本全勝(62)は「地元に住み続けたいという情念と、経済合理性は比較不能。それを決断するのが首長の仕事だ」と語る。
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ただ、宅地ができても、住民が戻らないという課題が浮かびつつある。約1180億円をかけてかさ上げと高台移転を進める岩手県陸前高田市。造成する約300ヘクタールは、被災地で最大規模だ。しかし、地権者の意向調査では、造成宅地の4割で利用の見通しが立っていなかった。すでに別の場所で自宅を再建した人が多かったという。市長の戸羽太(52)は「待ちきれずに苦渋の決断をした人もいる」と残念がる。
東松島市の野蒜地区では87%の宅地が埋まり、住宅を建てる槌音が響く。阿部は4月28日で3期目の任期満了を迎え、市長を退く。
「過去に例のない事業。復興増税を受け入れてくれた国民のためにも、被災地全般のまちづくりを検証し、今後の防災に生かしてほしい」
=敬称略 (茂木克信、峯俊一平、渡辺洋介)

 

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