9日 仰げば尊し【4】

朝日新聞2017年5月6日4面:「師の恩に報いる」42歳誓う 2015年3月、久田真紀子(42)に届いた知らせは、中学の時にチームを組んで悪さをした「千夏」の死。殺されたのだ。久田は、葬儀の仕切り役を買って出た。卒業してから25年も忘却のかなたにあった中学時代を思い出した。そして、かつての教師たちに連絡をとった。その一人、関根健一(69)は、チームの一人が妊娠してしまったとき、久田に頼まれて出産費用など40万円を貸した。
久田からの電話を受け、関根は聞いた。「おまえは今、何をしているんだ?」。ネットで見てと言われたので「久田真紀子」を検索した。社長をしているとある。半信半疑だった。経営者の学歴を見ようと思ったら、何も書いていない。大卒でも高卒でもないのか、まちがいない、久田だ!
久田を立ち直らせたくて竹刀で追いかけ回した、生活指導の星野誠一(63)。ほんとうは良い子だと信じていた、学生主任の北村英子(79)。葬儀には、当時の教師たちが集まった。慌ただしくあまり話せなかった。翌月の命日に、あらためて集まってくれた。
久田がとくに迷惑をかけた吉岡幸子(52)も来た。吉岡は教師2年目で1年生のクラスを担当。そこに久田がいた。たまにしか学校に来ない久田は、来ると吉岡の給食にトイレの水を入れた、暴れて授業を中断させた。けれど、吉岡は久田から逃げず、向き合った。次の年の3月、担任をやりとげて教師を辞めた。
わびる久田に、吉岡は言った。「あなたのせいじゃない。私が未熟すぎたの。しばらく会社員をしていたんだけど、久田に言われている気がした、『いまのあんた、違うんじゃない?』って」。吉岡は教職に復帰し、東京都内の中学で英語を教えている。
別れ際、吉岡は言った。「あなたは私の誇り、尊敬できる女性になりました。約束してね、体を大切にするって、むちゃしすぎないって」。吉岡は、久田の手をギュッと握った。久田は涙を流し、「うん」としか言えなかった。

久田は「千夏」の初月忌で教師たちと語り合ったことを、振り返った。「あんとき、私は中学生に戻ってた。なぜ暴れたのか、説明できねんだよね。そして、みんな、私にこう言ってくれたんだ」久田、これからも応援しているぞ!
親との縁は薄く、教師に迷惑ばかりかけた。そんな自分を応援してくれた人なんていない。久田はそう思っていた。「中学生のときも、先生たちは応援してくれてたんだね」 不良少女だった自分にも応援団がいた。ということは、会社の従業員ひとりひとりにも応援団がいる、ということだ。それは、家族であり。教師であり、友だちだ。「そのすべてを、社長である私は背負っている。正直、重たいね。でも、ぜったい従業員を幸せにしないとな」
目標は、早く会社を大きくして次にバトンタッチすること、という。仰げば尊し 我が師の恩「『仰げば尊し』の出だしくらいは知っているさ。私みたいなヤツでも、人生何とかなるって、子どもたちに語りたいんだ。反面教師になって、我が師の恩に報いたいよなあ」
久田の母校「足立区立第十六中学」は、05年3月に閉校となった。3年B組金八先生のロケで使われた「区立第二中学」との統合、のためだ。跡地は、東京電機大の千住キャンパスになっている。 =敬称略、おわり  (編集委員・中島隆)

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る