8月24日 迷走の長崎新幹線「上・下」

朝日新聞2019年8月21日4面:フル規格整備 反発した佐賀県 今月5日、東京・永田町の衆院第2議員会館。佐賀県や長崎県を走る九州新幹線西九州ルート(長崎新幹線)について話し合う与党の検討委員会は、佐賀県の未着工区間を通常の新幹線と同じ「フル規格」で整備する方針を決めた。会合後、検討委の山本幸三委員長(元地方創生相)は佐賀県への説明を優先して報道陣の取材に応じず、翌6日には佐賀県議会へ赴いた。だが山口祥義知事との面会はできていない。その山口知事は7日、報道陣にこう語った。「地元が求めていないのに、フル規格で整備するのだ、と中央が押しつけてくるようなやり方は、地方自治の観点から見ても大きな問題と言わざるを得ない」山口知事が反発する背景には、長崎新幹線を巡る迷走がある。長崎新幹線は博多駅から佐賀県内の新鳥栖駅や武雄温泉駅を経由し、長崎駅に至るルート。九州新幹線鹿児島ルートで共用される博多ー新鳥栖間を除くと、新たに新鳥栖ー長崎間の約120㌔を整備する。主に長崎県内を走る武雄温泉ー長崎は2012年、フル規格での工事が認可された。一方、佐賀県内の新鳥栖ー武雄温泉はもともと、在来線を活用する予定だったのは、車輪の幅を変え、フル規格も在来線も走れるフリーゲージトレイ(FGT)。新鳥栖ー武雄温泉は在来線のままで整備できるはずだった。ところが、採算性や安全面の懸念からJR九州は17年、FGTの導入断念を表明。検討委も18年に正式に断念した。フル規格の武雄温泉ー長崎は22年度には暫定開業する予定だ。当面は武雄温泉駅のホームで新幹線と在来線を乗り換える。残る区間の整備はどうするのか。検討委はフル規格での整備を有力案とした。同時にコスト削減のため、在来線を改造してフル規格と同じ車輪の車両を走らせる「ミニ新幹線」」も選択肢とした。博多ー長崎は、在来線の特急で最短1時間48分。全線フル規格なら約51分、ミニ新幹線なら約1時間13~19分に短縮される。一方、新鳥栖ー武雄温泉の整備費用は、フル規格なら約6200億円、ミニ新幹線なら約1800億~2700億円。FGT利用で想定されていた約800億~1400億円から増える。長崎県やJR九州は時間短縮の効果を優先し、フル規格を求めた。一方、短縮効果がそれほどなく、整備負担も増える佐賀県にとっては結論を急ぐ話ではない。検討委は整備に慎重な佐賀県の姿勢を、地元に有利な条件を引き出す「交渉戦略」みていた節がある。そのため検討委は、佐賀県の負担額をいかに軽減するかを議論してきた。しかし、そこで思わぬ「ちゃぶ台返し」(検討委の国会議員)に遭い、頭を抱えることになる。(山下裕志)
朝日新聞2019年8月22日4面:むしろ不便に? 佐賀県の懸念 4月下旬、長崎新幹線整備を検討する与党の検討委員会で、佐賀県の山口祥義知事の口から出たのは強烈な反対表明だった。「(佐賀県内の)新鳥栖=武雄温泉の間に、これまで新幹線整備を求めたことはないし、いまも求めていない」 在来線とフル規格路線を走れるフリーゲージトレイン(FGT)を断念した後、「フル規格」と「ミニ新幹線」という二つの整備方式を示した検討委に対し、議論のテーブルに着くこと自体を拒否したのだ。佐賀県にとって新幹線は「負担に見合うメリットがない」(県の担当者)。建設費のうち、JRが支払う線路などの使用料(貸付料)や国の負担を除いた分は、線路ができる自治体、つまり佐賀県が負担する必要がある。国土交通省の試算では、佐賀県の財政負担はフル規格なら約660億円、ミニ新幹線なら約280億~490億円で、FGTより増える。すでに博多=佐賀は在来線特急で最短35分で結ばれている。フル規格から約20分、ミニ新幹線なら約30分に縮まるが、「劇的」な時間短縮とは言えない。むしろ利便性低下の可能性さえある。整備新幹線の営業主体となるJRは、並行在来線の経営分離を認められている。分離された在来線は過去の傾向として、第三セクターとして運営され、経営を維持するために運賃を値上げする例が目立つ。新幹線が通れば特急の本数が減る不安もある。JR九州は、新鳥栖ー武雄温泉の並行在来線がどの区間か明らかにしていない。佐賀県は、通勤や通学の足となる長崎線などが並行在来線と位置づけられ、県民の利便性が損なわれることを懸念する。一方、人口減が深刻な長崎県にとって新幹線誘致は悲願だ。全線フル規格なら長崎ー新大阪の所要時間は約3時間15分。「大都市圏と結びついて交流人口の拡大が期待できる。地域経済活を性化させる起爆剤になる」(県の担当者) 両県がすれ違う中、長崎県側の「失言」も出た。検討委の谷川弥一衆院議員(自民、長崎3区)が5月、佐賀県との協議を念頭に「まるで韓国か北朝鮮を相手にしているようだ」と発言。釈明に追われた。8月末までに出そろう国の来年予算の概算要求で、未着工区間に必要な調査費が盛り込まれるかが地祇の焦点になる。検討委は、国交省の旗振りで佐賀県と長崎県、JR九州の4者が協議することを求めるが、山口知事は「フル規格をベースにしたような議論をする場であれば、参加するつもりはない」と突っぱねる。財務省幹部は言う。「これまでの整備新幹線は、関係者が同じ方向を向いてやってきた。地元が望んでいないことにつくることはできない」。迷走する長崎新幹線の議論の着地点はまだ見えない。(山下裕志)

 

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る