8月23日 医師会など反対「受診を抑制」

東京新聞2019年8月21日1面:処方薬→市販薬で医療費2126億円減 財政危機に健保連試算 湿布薬や花粉症治療薬など、効能が同じ市販薬で代用できるような薬を公的医療保険の対象から外した場合、年間2126億円の医療費削減になることが、健康保険組合連合会(健保連)の試算で分かった。健保連は、高齢者医療の負担増などで、近く保険財政が危機的な状況になるとしており、「医療保険制度の存続と国民負担の軽減に有効な対策になる」と話している。(井上靖史)
市販品で代用できる薬の一部を医療保険の対象から外す方針は、経済財政諮問会議や財政制度等審議会も提言しているが、日本医師会などは「患者の受診抑制につながるりかねない」として反対している。健保連は試算を発表し、診療報酬や薬価を審議している厚生労働相の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協)に導入に向けて検討するよう要望する。医薬品には、ドラッグストアや薬局で買える市販薬と、医師の処方せんを持参して薬局で購入する医療用医薬品がある。医療用薬品は厚労省の有識者会議で安全性が確認されると、市販化が認められる。市販化されても医療用医薬品はなくならない。市販薬は全額患者負担だが、保険が適用される医療用医薬品は、1~3割の患者負担ですむ。患者は医師に診療代や処方せん料を支払うが、それを含めても安くなる場合がある。そうした仕組みが過剰な受診や大量の残薬につながる一因と指摘されてきた。健保連は市販薬と同じ成分でできた430種類の医療用医薬品に着目。2013年10月から1年間の健保連加入者(3千万人)のレセプト(診療報酬明細書)から、保険で支払われた薬剤費を算出。国民健康保険など他の保険組合の薬剤費も加入者数などから推計すると、全体で8400億円に上った。このうち皮膚保湿剤やビタミン剤、風邪薬、うがい薬など、市販品で対処できるとみられる症状に使われた薬を保険適用外とした場合、2126億円減になるとした。 国民医療費、年1兆円増 2016年度の国民医療費約42兆円のうち、約9割は保険料と税金で賄われている。医療機関や薬局に支払われる国民医療費はこれまで年1兆円ペースで増加。健保組合の組合員1人あたりの保険料(個人と事業者でおおむね折半)が、19年度は約50万円と10年前から約12万増加、3年後には約5万円増える見通し。健保組合解散にも歯止めがかからない。医療機関で薬を処方してもらう場合、診療費と処方せん料が必要となる。初診料は年齢や診療時間で異なるが、平日の日中に受診する場合、成人は原則2820円、処方せん料は680円。うち1~3割が患者負担となる。健保連の担当者は「今回は医療外来の薬剤だけを調べた。薬が保険適用外となることで、医療機関を適正に受診するようになれば、医療費全体で大きく削減されるだろう」と説明する。
同日25面:保険財政 強まる危機感 処方箋→市販薬試算 保険財政の破綻を回避しようと、健康保険組合連合会(健保連)が2100億円に上る医療保険財政の削減案をまとめた。湿布代や花粉症治療薬などを保険の適用外とすることで、増え続ける国民の医療保険料や税負担の緩和につながると期待する。日本医師会などは「患者の受診抑制になりかねない」と強く反対しており、国民皆保険を持続させるための本格的な議論が求められる。「薬局で買えるような薬は医師に処方してもらなくてよいのではないか。本当に高額で、個人で負担しきれない薬に保険適用は限っていくべきだ」 今年5月、厚生労働省。白血病治療薬キムリアの公定価格(薬価)が3349万円と中央社会保険医療協議会(中医協)で決まったことを受けた記者会見で、健保連の幸野庄司理事は訴えた。同席した中小企業の健保組合「全国健康保険協会(協会けんぽ)の吉森俊和理事も、隣でうなずいた。健保連や協会けんぽは「団塊の世代が75歳に差しかかる2022年以降、保険財政が危機的な状況を迎える」と、危機感をいっそう強めている。後期高齢者医療制度や国民健康保険(国保)などへ出す支援金が大幅に増え、1人当たりの年間保険料が平均5万円(企業と原則折半)増えると試算。そこに現れたのが高額薬んもキムリアだった。軽症の処方薬を保険の対象から外す対策は、これまでも少しずつ実行されている。2012年度以降、栄養補給を目的としたビタミン剤やうがい薬の単独処方が保険適用から外された。湿布の処方も1回の診察で70枚までに制限された。医療費に詳しい淑徳大の結城康博教授(社会保障論)は「湿布をたくさんもらってためたり、市販で買える軟こうを処方されるようなモラルハザードも起きている」と話し、保険適用の厳しいチェックが必要と指摘する。医療の不適正な利用もたびたび問題視されているが、もれまで抜本的に議論されてきていない。背景について、医療費の議論に携わる関係者は「日本医師会の政治力が大きいと思う。政府は医師会の反対する方針に踏み出しにくかったのだろう」と話した。医療機関にとって、患者がドラッグストアで直接薬を買うようになれば、初診料や薬の処方せん料などの収入減につながるからだ。患者に初期判断を任せることを危ぶむ声も多いが、それでも健保連の幸野さんは「再生医療など既存の概念を超えた医薬品が保険適用され始めている。画期的な薬だけに価格は従来とは桁違いだ。医薬品の概念が変わってきたのだから、制度も時代に適合したものに見直すべきではないか」と訴える。健保連はまた、市販薬で代替できる医療用医薬品について、病気の重さに応じて患者の負担割合を変える手法も検討。抗がん剤など重症に対する医薬品は自己負担ゼロとし、以下、病気に応じて負担割合を35~100%とする。より重度の患者を保険で確実にカバーする狙いで、フランスが導入している。導入した場合、健保連の試算では、1860億円の医療保険財政の削減につながるという。

 

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