8月13日 森友改ざん残る謎 

朝日新聞2019年8月10日2面:特捜部 市民感覚とずれ 森友学園への国有地売却や財務省関連文書の改ざんなどをめぐる問題で、当時の財務幹部ら10人は再び不起訴となった。大阪地検特捜部の再捜査で浮かびあがったのは、確実な有罪判決を求める検察の捜査と、問題を追及してきた市民感覚とのずれだ。一連の問題は大きな謎を残したまま、捜査を終えた。 幹部「刑事罰適用に限界」 「検察審査会の指摘をふまえ、必要かつ十分な捜査をしたが、いずれについても起訴するに足りる証拠を収集することができなかった」 9日午後4時、大阪地検が入る大阪中之島合同庁舎(大阪市福島区)16階の特捜部長室。小橋常和部長は集まった報道陣に撮影や録音を禁じうえで、不起訴にしたことと、その理由を短く語った。その後、各社の記者と個別に面会。詳しい理由を尋ねる朝日新聞の記者の取材に、「お答えを差し控えたい」ち繰り返した。大阪第一検察審査会による「不起訴相当」議決から4カ月余り。特捜部は他地検から応援検事を臨時に集めて15人ほどの捜査チームを組み、再捜査に臨んだ。だが、11人の審査員が示した「民意」と、特捜部の認識の溝は埋まらなかった。再捜査の対象は、①財務省近畿財務局がごみの撤去費用8億円余りを値引いて国有地を森友学園に売却し、故意に国に損害を与えたとする背任容疑 ②決裁文書変造・同行使容疑 ③財務局が学園側との交渉記録などを廃棄したとする公用文書毀棄容疑ーの三つだ。 ①について、検審の議決は高額の撤去費が適切に検証されていないと指摘し、再捜査に「客観性のある試算」を求めていた。特捜部は値引きが不当とまでは認められないと説明したが、客観性のある試算を行ったかは「捜査の具体内容で差し控える」とした。 さらに特捜部が重視したのは、売買契約に国が損害賠償責任を免れる内容があった点だ。捜査関係者は「白でも黒でもなくグレーだ」と語った。 ②では。決裁文書から安倍晋三首相の妻昭恵氏や政治家の名前が削除された。検審は「常識を逸脱した行為」「大幅な削除により、原本が証明していた内容が変わった」と指摘していた。しかし、特捜部は文章の内容や趣旨が大きく変わったわけではないと判断した。検察幹部は「文章の本質は国有地の取引内容や経過。政治家の関与を示すためではない」と説明する。一方、国会で問題になった後に交渉記録などを破棄した③については、「最も筋がいい」(検察幹部)と検察内部でも起訴に積極的な見方もあった。だが、特捜部は財務省の規則が保存期間を「1年未満」とする点を重視し、起訴しなかった。検察幹部の一人は、公用文書破棄容疑は起訴すれば「(有罪と無罪)どちらに転んでもおかしくなかった」と明かす。だが、有罪判決が得られる高度な見込みがなければ起訴しないという検察組織の「鉄則」がある。ある幹部は語る。「改ざんはけしからん行為だ。ただ、刑事罰の適用は限界がある」  国有地取引の証言 闇の中 「もはや特捜部、検察庁に期待するものは何もない」。佐川宜寿・元財務相理財局長らを告発した坂口徳雄弁護士らは9日、大きな謎を残したまま捜査を終えた検察への怒りをあらわにした。最大の謎は、9割近く値引きされた、「異例」ずくめの国有地取引だ。国土交通省大阪航空局が管理していた大阪府豊中市の国有地は当初、森友学園との間で定期借地契約が結ばれた。だが、近畿財務局は売買契約に切り替え、10年の分割払いまで学園に認めた。2012~16年度、売却を前提とした国有地の定期借地は森友学園以外に見当たらない。異例の契約の前に学園側がちらつかせたのが、安倍晋三首相の妻昭恵氏の存在だ。全学園理事長の籠池泰典被告=詐欺などの罪で公判中=14年4月、財務局との打ち合わせで昭恵氏と現地で撮った写真を見せたところ、学園と国の取引は進んだ。「神風が吹いた」と籠池氏が振り返るこうした経緯が売却の判断にどう影響したか、明らかになっていない。さらに、大幅値引きの根拠とされた地中のごみが、そもそも存在していなかった疑いも消えていない。取引の検証に役立つはずだったのが、改ざんされたり廃棄されたりした決裁文書や交渉記録だ。改ざん・廃棄は財務省の報告書では、佐川氏の「態度」を総務課長らが「受け止め」て指示を出したとされるが、政治の影響の有無は明記されておらず、不透明だ。問題が発覚した17年2月、安倍首相は「私や妻が関わっていれば、首相も国会議員も辞める」と発言。その後、佐川氏は国会で「(交渉)記録は残っていない」と答弁した。財務省内で改ざんや覇気が行われたのはその後からだ。佐川氏は18年3月の証人喚問で改ざんへの関与について証言を拒否し、安倍首相や官邸などからの指示を否定した。検審議決は佐川氏が捜査を受けた際に「改ざんを指示していない」とした供述について、「信用性がない」と指摘している。真相解明の期待を受けた大阪地検。捜査を受けた関係者が、真相解明のカギとなる物的証拠や証言を残したかもしれないが、不起訴により膨大な証拠が公になる機会も失われた。(多鹿ちなみ、細見卓司)
政府静観 野党は究明に意欲 安倍政権はこれまで、検察の捜査について具体的な言及を避けてきた。政権幹部の一人は9日、「司法がそういう判断をしたということ。政府としてコメントしようがない」とだけ話した。検察審査会が今年3月に不起訴不当を議決した際にも、菅義偉官房長官は記者会見で「検察当局においては、検察審査会の議決の内容を踏まえて、適切に対処する」と述べただけだった。一方、立憲民主や国民民主、共産など野党各党は、真相解明に引き続き取り組む構えだ。国民の玉木雄一郎代表は党本部で記者団に対し、「(国有地の)値引きについては、会計検査院も、その根拠が明確でないと言っている。刑事責任は一つの結論に至ったと思うが、行政的な責任については引き続き説明責任が求められる」と述べた。
省庁、文書開示なお消極的 公文書をめぐる一連の問題を受け、政府は昨年7月、再発防止策を打ち出した。省庁の監視役を担う部署の新設など、作成された文書の扱い方を重視する内容だ。ただ、文章自体を作成していないケースや文章がすぐ破棄されるケースが明らかになるなど、行政機関の透明性は必ずしも高まっていない。財務省による決裁文書改ざんのほか、防衛省の日報隠蔽などを受けて策定された再発防止策の柱が、独立公文書管理監をトップにした内閣府の「公文書監察室」の新設だ。各省庁に委ねられていた文書管理を、第三者的な立場からチェックする役割を担う。同監察室は4月、13府省に対する実地調査の結果をまとめた報告書を公表した。府省の判断で作成から1年未満で廃棄された文書の妥当性などを調査。政策の検証に必要になる可能性がある文書が破棄された事例などを指摘し、廃棄する文書の範囲を広くとらえすぎないよう注意喚起した。再発防止策にはこれ以上に、文書の電子も盛り込まれた。公文書の大半は紙ベースで保管されている。政府は2026年度をめどに、文書の複製や変更をした履歴がわかるよう、電子媒体で保管するためのシステムに移行する方針だ。こうした公文書の管理の徹底は、国民が国の活動を監視、検証するために進められている。だが、今年6月には、災害などの対応のために内閣官房の幹部らが安倍晋三首相と面会した際の記録が残されていないことが明らかになった。4月には、複数の府省が大臣の日程表を短期間で廃棄していることも判明した。文書の開示に消極的な市政も相変わらずだ。財務省は昨年8月、森友学園との国有地取引をめぐる行政文書の一部を「不開示」と決定。しかし、開示請求した野党議員が審査請求を行ったところ、財務省の諮問を受けた総務省の「情報公開・個人情報保護審査会」が今年6月、財務省の決定を「違法」と判断した。審査会は、財務省の決定について、そもそもどのような文書の開示の可否を検討したかがわからず、決定の根拠がわからないと指摘した。同省が改めて対応を検討している。(久保田一道)
同日31面:森友「捜査尽くしたか」 告発者ら不起訴「納得できない」 学校法人森友学園(大阪市)への国有地売却と財務省の公文書改ざん問題で、元財務相幹部らが再び不起訴となり、一連の捜査が終結した。捜査は尽くされたのか。国民への説明は十分なのか。関係者からは怒りや疑問の声が相次いだ。「再度の不起訴処分は極めて遺憾。表情に怒りを持っている」公文書改ざんを主導したとされる佐川宜寿・元財務相理財局長らを告発した坂口徳雄弁護士らは9日午後5時すぎ、大阪市北区で会見を開き、検察への憤りをあらわにした。坂口弁護士は、財務省を強制捜査しなかった点について「組織的な犯罪は、強制捜査抜きには真相の解明はできない。捜査しようという気迫が感じられなかった」と嘆いた。同じく佐川元局長らを告訴していた上脇博之・神戸学院大教授も取材に対し、「権力犯罪の真相を解明するため、起訴すべきだった。これが不起訴であれば、簡単に公文書の改ざんや覇気ができるようになる」と話した。国有地取引の舞台となった地元で早くからこの問題を追及してきた大阪府豊中市の木村真市議は「悔しいし、納得できない。政権への忖度があったのかもしれない」。木村氏は、財務省近畿財務局の職員(氏名不詳)を大阪地検に告発し、検察審査会の議決後も起訴を申し入れた。学園への国有地売却額などを一時不開示とした国に損害賠償を求める訴訟を起こして一部勝訴。大阪高裁に控訴しており「財務省担当者の出廷を求めるなどして、国有地取引の背景に何があったのか真相を解明したい」と力を込めた。佐川元局長らを告発し、最高険に厳正な捜査の指導を求めていた醍醐聡・東大名誉教授らもコメントを発表。「参院選が終わったこのタイミングで不起訴処分の決定を発表したのは、安倍首相夫婦が深く関与した本件を、出来レースの国策捜査で幕引きしようとするものにほかならず、検察に対する国民の信頼を失墜させる」などと批判した。(野田佑介、米田優人、波多野大介)  「亡くなった同僚 浮かばれない」 近畿財務局OBの喜多徹信さん(70)は、元同僚職員が改ざんを苦に自殺したとされる問題に触れ、「死んでしまった職員が浮かばれない。本当に森友問題はこれで終わりでいいのか。国会でまだまだ議論を続けてほしい」と求めた。3月の検察審査会の議決は、改ざんは「一般市民感覚からすると、いかなる理由があっても許されることではなく、言語道断の行為」とし、財務省幹部について「不起訴不当」とした。喜多さんは「市民がまっとうな判断をしてくれた。再捜査して公判で真相を解明してほしい」と訴えていた。それだけに、大阪地検が「起訴するに足りる証拠を取集することができなかった」と結論づけたことについて「土地取引については籠池さん自身が詳しく話している。改ざんは財務省自身が調査で認めている。証拠が足りないというのは納得いかない」。(一色涼)
動機は? 財務省内に疑問 10人全員が再び不起訴処分となったことについて、財務省は9日、「検察当局の捜査の結果としての判断であることから、財務省としてコメントすることは差し控えたい」との談話を出した。財務省幹部の一人は「不起訴だからといって一喜一優しない。多くの職員はまじめに仕事に取り組んでおり、信頼回復に努めていくだけだ」と淡々と話した。財務省は昨夏以降、不祥事からの立て直しをまざして、改革に取り組んできた。今夏の定期異動後には、新たに課長補佐級の職員を「主任文書管理担当者」として配置するなど文書管理の体制を整えた。法令順守やハラスメントに関する研修も継続的に行い、問題の背景にあったとされる「上意下達の文化」の改善を図っている。財務省理財局の幹部はこうした取り組みについて、「上司に意見しやすくはなっているし、改革は実感できている」と話す。ただ、複数の職員から聞かれるのは、森友問題が生じた直接の原因に迫れていないとの思いだ。同じ理財局の幹部は「『どうしてそういうことになったのか』という疑問は、みんな思っている」と話す。(岩沢志気) ◇公文書の改ざんや廃棄を主導したとされるのは、当時の財務省理財局長佐川宜寿氏だ。しかし佐川氏は、国会の証人喚問などで「刑事訴追の恐れ」を理由に詳しい説明を避けてきた。捜査終了を受け、朝日新聞は佐川氏の自宅を訪ねたが応答はなかった。佐川氏は昨年3月、文書改ざんについて問われた証人喚問で「刑事訴追の恐れがある」などとして40回以上にわたって証言拒否を繰り返した。同省の調査報告書では改ざんや廃棄の「方向性を決定づけた」と認定されたが、報告書の内容からは、佐川氏がなぜ、どのような指示を出したのかといった動機や経緯は不明なままとなっている。  籠池被告「首相守るため忖度」 「元々、検察は何もやる気がなかった。結論ありきの国策捜査だった」。詐欺などの罪で大阪地裁で公判中の森友学園前理事長、籠池泰典被告(66)は、当時の財務省幹部らを再び不起訴とした検察の処分に憤りをあらわにした。籠池被告は2017年6月に自宅などの家宅捜査を受け、その後、逮捕・起訴された。「私と家内の逮捕は、目くらましや口封じのため。財務省の問題こそが本丸で、財務省も捜査すべきだった」と主張した。新設予定の小学校の名誉校長には一時、安倍晋三首相の妻昭恵氏が就任していた。大幅値引き発覚後、財務省が昭恵氏の名前を削除するなど決裁文書を改ざんしていたことも判明した。籠池被告は「「財務省の役人を守らないと官僚から反乱が起きかねない、と検察は考えたのではないか。安倍首相を守るために忖度した判断だ」と訴えた。(一色涼)

 

 

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