8月13日 予防医療Ⅱ「上」

朝日新聞2019年8月10日4面:病院は充実 呉市の危機感 安倍政権が推進する「予防医療」。経済産業省がその旗振り役だ。「成長戦略実行計画」が「ベンチャー企業が保健指導をし、糖尿病の重症化が予防できて透析患者が減った」と取り上げたのは広島県呉市。本当にそうなのか。現地を訪ねた。呉市の医療は充実している。戦前は軍港、戦後は造船業で栄え、ベッド数400以上の病院が三つある。人口10万人あたりのベッド数は全国平均の1.5倍だ。病院へのアクセスがよく高齢化率は高めで医療費はかかる。1980年代、呉市の国民健康保険の財政は危機に迫る。国や県の支援を受けながら保険料を引き上げ、91年度に赤字を解消した。2016年度の保険料の1人あたり収納額は10万円超。収納率は9割で、中核市では最も高い。17年度の国保の被保険者1人あたりの医療費は45万9千円で、全国比で1.28倍。「財政が豊かで保険料を安く抑えられる首都圏の大都市部にはない危機感がある」(福祉保健課の担当者) 保険料という収入面だけでなく、医療費の支出面でも「節約」に励んできた。転機は05年。中本克州保健部長(当時)と、中堅システム会社、データホライゾン(DH、広島市)の内海良夫社長の出会いだった。DH社は紙のレセプト(医療機関からの請求書)を電子化し、データベース化する技術を開発していた。呉氏は効率化のためDH社のサービスを08年に導入。大きな狙いは、安価なジェネリック(後発薬)への切り替えの促進だった。保険者(市町村)の支出だけでなく、患者本人の自己負担も減らせる。しかし当時、ジェネリックの品質への医師の不信感は強かった。また、市が切り替えを促すことは「医師の処方権の侵害になる」という見方が強かった。そこで中本氏は、呉市医師会長(当時、現・広島県医師会副会長)の豊田秀三氏に直談判。「国保が健全でないと医師も困ることをよく理解してもらえた」(中本氏)。豊田氏は「中本さんは、財政破綻が話題になっていた北海道夕張市のようになってしまいます、と。医師として問題のある薬を患者に推薦はできないが、一市民として財政破綻は困ると思った」と振り返る。呉市医師会は、薬剤師会や歯科医師会とともに研究会を立ち上げ、最終的にジェネリックと先発薬との差額通知を容認した。反響は大きかった。「なんで認めるんだと医学部の同級生から電話がかかってくるし、他市の医師会長からも白い目で見られた」(豊田氏)。反発も多い政策だったが、地方公務員としては型破りで突破力のある中本氏、地域に根差した開業医としての温かみと豪快さを併せ持つ豊田氏、この2人の強い信頼関係があったからこそ、壁を乗りこえることができたのだろう。(編集委員・浜田陽太郎)

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る