9月8日てんでんこ 音楽の力【11】

朝日新聞2017年9月5日3面:2011年8月1日正午。井上ひさしゆかりの町に、小曽根の演奏が流れた。 東日本大震災から2ヵ月たった2011年5月11日、小曽根真は前年亡くなった作家、井上ひさしの追悼コンサートを東京で開いた。小曽根の妻、神野三鈴が井上作の舞台に起用されていたことが縁で、小曽根も音楽や演奏を数多く担当していた。 大竹しのぶ、井上芳雄ら俳優も出演し、ステージには被災前と被災後の岩手県大槌町の蓬萊島の写真が映し出された。蓬莱島は、井上ひさしが脚本を共作したNHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」のモデルとされる。小曽根は「先生が生きていたら募金を呼びかけるだろう」と舞台で話し、ひさしの妻ユリら出演者がロビーで募金箱を持って立った。
打ち上げの席で、招待された大槌町職員、佐々木健(60)が思い切って頼んだ。「町の防災無線で正午の時報代わりに流れていたひょうたん島のテーマ曲の音源が、消失した。誰か作ってもらえませんか」「やります」。すぐ小曽根は手を挙げた。小曽根は舞台に参加した俳優や演奏家を東京のスタジオに集めた。1曲録音すると「色んな気分の時もあるだろう」と、ピアノソロや合唱など、アイデアが広がり、4時間ほどで12種類のバージョンができた。
音源をプレゼントした小曽根は8月1日正午、大槌町で復活したメロディーが響くのを聞いた。市街地では津波で流されて建物の基礎部分ばかりが残る。阪神大震災後、普通だったJR神戸線が全線開通し、「次は三ノ宮、三ノ宮」のアナウンスを車内で聞いて涙が止まらなかったを思い出した。「これから日常の音を一つずつ取り戻していってほしい」
録音前、小曽根は実情を知る為ためレンタカーを運転して大槌町を訪れた。避難所になっていた公民館にピアノがあった。案内した佐々木は「せっかくだから演奏してほしい」と頼んだ。阪神大震災後、小曽根は1ヵ月半でFMの音楽番組を復活させたが、ここでは好まない人にも聞こえてしまう。
断ったが、佐々木が重ねて頼むので「ちっとだけお音出していい?」と問いかけてから静かな曲を数曲弾いた。その時小曽根は、すでに先を見据えていた。
(東野真和)

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