8日 首長と震災 震災自治体の6年【上】

朝日新聞2017年3月5日2面:住民全員消えたままの町で 7千人が全国に避難中の福島・双葉町長 東日本大震災から6年になる。この間、被災市町村には、前例のない難題がつぎつぎと突きつけられてきた。そのつど解決の道筋を探ってきた市町村たち「首長」(しゅちょう)の姿を通じて、被災地のいまを伝えたい。はじめは、住民がいなくなった福島県双葉町から。
双葉町には、東京電力福島第一原発がある。2011年3月の原発事故で、町の面積の98%が人の住めない「帰還困難区域」となった。約7千人の町民全員が、北海道から沖縄県まで全国38都道府県に散り散りに避難している。
今年の1月19日、双葉町長選挙が告示された。「これじゃ、やりようねえべな」解けきらない雪が残る仮設住宅の真ん中で、双葉町長の伊沢史朗(58)は、ただ一人立ち尽くしていた。10分ほど敷地内を歩き回ったが、誰にも会えない。
双葉町役場は、約60キロ南の福島県いわき市に仮住まいしている。ここで立候補を届け出たあと、町民がいるいわき市や郡山市の仮設住宅へ演説に向かった。公職選挙法が禁じる戸別訪問になるので、家々を訪ねることはできない。5時間かけて4カ所を回り、出合えた町民は40人ほどだった。
「本来の地方自治の選挙とかけ離れている。一人ひとりの町民の声を聞けと言われても、無理だ」午後5時、無投票で再選が決まった。
「原子力明るい未来のエネルギー」 1988年、双葉町の商店街の入り口に、原発PRの標語を掲げた看板がかけられた。原発事故後に撤去されたが、20年以上、双葉町の人々の生活に溶け込んできた。60年、福島県が原発誘致を表明。双葉町は、隣の大熊町と誘致を陳情した。78年に双葉町で第一原発5号機、79年に同6号機が稼働した。
農繁期が終わると住民の大半が出稼ぎに出る貧しい町は、東電からの巨額の固定資産税などで潤い、道路やハコモノ建設が進んだ。財政が厳しくなると、議会はさらなる原発を求め、増設決議を採択した。町民の生活をつなぎとめていた原発。それが、町民をのこらず追い出した。
「復興1周半遅れ」に危機感 「取扱厳重注意」 そう書かれた政府の文章がある。関係者によると、国や民間が福島県で進める復興事業を一覧表にまとめたものだ。「産業・雇用の復興の加速」「生活環境の復興の加速」。目的別に分類された事業名が、市町村ごとに並ぶ。そのなかで、双葉町の空欄が目立つ。「双葉町は1周半、遅れています」震災から1年がたったころ、双葉町議会から副議長だった伊沢は、政府関係者からこう言われた。事故直後、当時町長だった井戸川克隆(70)は「放射能から町民を守る」と訴え、住民約1200人を率いて埼玉県の「さいたまスーパーアリーナ」に役場ごと避難した。福島県内の自治体で、役場機能を県外に移したのは双葉町だけだ。
井戸川は「人が住めないところに住ませようとするのは犯罪だ」と述べ、住民の早期帰還をめざす国や、福島県内に役場を戻すべきだと主張する町議会と対立した。町政は混乱し、復興計画の策定は遅れた。
混乱は住民の分断も生んだ。メディアに注目された埼玉県の避難者に対し、福島県内にとどまった避難者からは「町に見捨てられた」との声も上がった。「このままだと地図上から双葉町が消える」。伊沢は危機感を抱いた。
過去の町長選で井戸川の選挙対策本部長を務めたこともある伊沢だが、2012年に井戸川に対する3度の不信任決議案が提出されると、賛成票を投じた。井戸川の辞職を受けた町長選に立候補し、13年に初当選。3カ月後、役場機能を福島県内に戻した。
当初の遅れはいまも尾を引き、昨年の双葉町の復興関連事業の数は、同じく第一原発が立つ、隣の大熊町の半分以下にとどまる。
「あきらめたら町はまくなる」 「前例のないことを常に問題提起されて、答えを出さなければならない。それが正しいかどうかも、俺には、わからない」 住民が町からいなくなって6年。伊沢はいま、こんな思いにとらわれている。
昨年11月、双葉町と大熊町にまたがる原発の周囲で、環境省の「中間貯蔵施設」の建設が始まった。東京ドーム340個分の広大な敷地に、放射性物質を含んだん汚染土などの除染廃棄物を30年間保管する。事業費は1.6兆円。
中間貯蔵施設は、住民帰還の妨げになる「迷惑施設」だ。45年には県外に運び出すことを政府は約束しているが最終処分場のめどは立っていない。 話しは4年ほど前にさかのぼる。13年春、福島県会津若松市。双葉町長の伊沢と大熊町長、楢葉町長が3人が秘密裏に集まった。この頃、3町は中間貯蔵施設の候補地だった。
伊沢は認めないが、朝日新聞の取材では、このときに、双葉、大熊両町で引き受ける方向性が定まった。楢葉町は、避難指示が出ている市町村の中でも早期の住民帰還が見込まれ、住民が戻る見通しが立たない両町よりも、先に復興するべきだという考えだった。
15年1月、双葉町は中間貯蔵施設の受け入れを正式に決めた。予定地は町面積の1割。「国策の原発に協力し、中間貯蔵施設に協力する。われられが見捨てられていいわけがない」と伊沢。政府は福島県と2町に生活再建支援名目で約3千億円の交付を決め、双葉町には389億円が入った。
政府は双葉町と大熊町を中心とした帰還困難区域の一部を「復興拠点」と定め、近く本格的に除染を始める。除染にかかる見込みの数千億円は、東京電力ではなく国が負担する。
国の関与を引き出した伊沢だが、町民からは批判も浴びる。昨年10月の町政懇談会では、復興拠点について「そんな事業にお金をかけて、どれだけの人が住むのか。やめた方がいい」と町民から突き放された。
復興に向けて、廃炉研究などの原発関連の企業の誘致もめざしているが「また原発に頼るのか」と批判する声もある。不通が続くJR常磐線の双葉町はこの周辺に復興拠点を整備する計画を立てている。
ただ、復興拠点の総面積は帰還困難区域の5%程度とみられ、住民の期間は早くても5年後。戻る意向を示す町民は1割ほどだ。住民たちは帰ってくるのか、町は残るのか。この街で生まれ育った伊沢に問うと、こう答えた。
「双葉町は被害者だ。なぜ、歩会社が存続をあきらめなければならないんだ。住民が戻ることをあきらめた瞬間、町はなくなる」
=敬称略(杉村和将)

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