7月20日 規制緩和 起業促進ハンコ文化の壁 

朝日新聞2019年7月18日7面:起業を促すために会社設立を1日でできるようにする。そんな規制緩和に、「伝統」が立ちはだかる。政府は、オンライン化によって、10日ほどかかる会社設立の手続きの短縮化を成長戦略でうたってきた。会社の印鑑も不要となる。ただ、今年6月に公表した新たな方針で奇妙な一文が加わった。「この際、印鑑届け出のオンライン化を検討する」。唐突に会社の印鑑の話が浮上した。 印鑑業界が反発 背景に、印鑑業界の反発があった。全日本印章業協会は昨年2月、要望書を内閣府に提出。国の押印の制度に協力してきたことや印鑑が伝統文化であることを強調し、会社設立手続きのオンライン化が進めば、全国で9千業者の多くが廃業し、日本の押印文化を維持できなくなると訴えた。全国印章政治連盟もつくった。松島寛直会長は「日数の短縮化が起業の促進につながるとは思えない」と疑問を示す。国会議員の「日本の議員連盟(ハンコ議連)」も発足。政府に働きかけ、印鑑活用の検討に一文が盛り込まれた。押印の書類をスキャンするなどのオンライン化を想定する。手続きの短縮化では、法務省の反対で計画が変更されている。政府の検討会は、新会社の定款を公証人が認証することや起業家らと面談する手続きを不要とした。これに法務省が猛反対し、制度は維持された。公証人は、法務省の「天下り先」との批判がある。経済界からは反発が強まる。今春まで経済同友会代表幹事を務めた小林喜代・三菱ケミカルホールディングス会長は昨年暮れの会見で「ハンコ文化がいまだにはびこっている。戦後、経済・社会システムが変わっていない」と不満を漏らした。 まだ決定打なし 安倍晋三首相は2次政権の発足以降、繰り返し規制緩和を進める考えを示してきた。毎年示す経済改革の指針「骨太の方針」は規制改革に多くの記述を割いてきた。大胆な規制緩和をうたう「国家戦略特区」などの制度も、毎年、新メニューのように現れる。規制緩和は企業活動を制限している法律やルールを緩めて、企業が稼ぎやすくする環境を整える取り組みだ。アベノミクスは短期的な金融緩和と財政出動で時間を稼ぎ、その間に規制緩和を進めて経済成長を遂げるというシナリオだった。日本経済の成長力を高める機能を期待した、のいわば「本丸」だ。だが、6年半を経ても成長力の向上をもらたした「決定打」は見当たらない。安全の確保や既得権益とぶつかり、当初期待された規制緩和が結局は「玉虫色」となるはずだった企業側は不満を募らせている。海外発の取り組みとして注目を集めた民泊では、新法で営業できる上限を年180日と定めるなどしており、使いにくい制度になっているとの指摘がある。緩和はバラ色の結果になるとも限らない。かつて派遣労働を幅広い職業でも認める緩和に踏み切った結果、多くの「ワーキングプア」を生み出した例もある。明治安田生命保険の小玉祐一チーフエコノミストは「近年はいずれも小粒の政策で、規制改革策を盛り込んだ成長戦略が公表されてもマーケットが反応しなくなった。今後、岩盤規制となっている医療・教育・農業の改革をめざすべきだ」と話す。一方、第一生命経済研究所の永浜利広主席エコノミストは「何でも緩和すればいいわけではない。望ましい競争が見込める分野で改革を進めるべきだ」と指摘する。(加藤裕則、北見英城)

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