7月19日 「選挙は無意味」なのだろうか 

朝日新聞2019年7月17日35面:無作為 くじ引き論まで■無関心に未来なし 大詰めの参院選だが、低投票率が心配される世論調査結果も出ている。統一地方選では多くの選挙で過去最低投票率を記録したばかり。「選挙は無意味」とでもいう無力感、背景に何があるのか。4月にあった大分県議選で、16選挙区のうち半数が無投票で決まった。ある選挙区で、出馬を考えたという現職市議に会ってきた。2期連続の無投票で、支持者から立候補を促す声もあったという。「選挙を盛り上がるためだけに、しがらみを断ち切って立候補したといてどうなるのか」。勝ちが見えない選挙なら意味がない、と話す。「年金2千万円問題」が発覚したとき、自民・公明は野党の求めに応じず、100日以上も予算委員会を開かなかった。その間、安倍晋三首相が官邸にお笑い芸人の訪問を受けてたわむれ、ゴルフに興じた。一部メディアが批判したが、世論は大きな問題としなかった。選挙は無意味のその先に、議会は無意味という空怖ろしい批判が、すでに下っているのでないか。九州大の岡崎晴輝教授(政治倫理)は、裁判員に選ばれたことがある。「現役の法学部教授では、恐らく日本で私1人だけ」という激レア体験だ。
少年3人が少年1人を殺した重大事件の裁判だった。「プロの裁判官や法学部教授に、法律論とはまったく無縁の若者や大工さんらが完全に対等に渡り合い、自由に意見を述べていた」と岡崎さんは話す。岡崎さんらの訳したD・ヴァン・レイブルック著『選挙制を疑う』が話題だ。欧米など先進国では選挙制民主主義が重い病気にかかっていると診断、処方箋として抽選制議会を提唱する。くじで選ばれた市民に議会の機能の一部を分担させる。極論のように聞こえるが、民主主義の歴史を振り返れば、じつは選挙制こそが特例で、抽選制の方が民主主義はうまく機能するという。いわば選挙は無作為で、という論だ。岡崎さんは自身が裁判員を経験したことで、「抽選で選ばれた代表の能力に確信を持った」という。 無批判な信仰 一方で選挙を無批判に信仰する人もいる。衆院の小選挙区で議席獲得率74%と野党を圧倒する自民党だが、得票率では半数以下、48%の信任を得ているに過ぎない。それでも首相側近から「ワイルドな憲法審を進めないといけない」とワイルドな発言が出る。選挙結果への無邪気な過信がある。「多数派の意見を議論で修正していくのが民主主義。選挙結果が絶対なら、議会で議論する必要はなくなる」と岡崎さんは話す。その意味では、選挙無意味派も無批判派も、「民主主義=選挙」と無自覚に信じ込んでいる点では同じだ。「どちらもまるで選挙原理主義者」という。一橋大の中北浩爾教授(政治学)は、選挙の抽選制には懐疑的だ。ただ、小選挙区制が機能不全に陥っているのではないかという危惧はもつ。
「もし今回も自公が勝てば、6回連続で国政選挙で勝つことになる。その間、森友・加計問題も、集団的自衛権や特定秘密保護法など国論を二分した問題もあったんですよ? 政権交代を促す目的でできた小選挙区制が機能していない」 無期限はない 選挙制度は無期限ではない。賞味期限が必ずある。「制度をすぐに変えることは難しい。でも、政党助成金や議員歳費問題など、世論の批判が集まりやすく、かつ、選挙区制度の改革に結びつきやすい『弱い環』は必ずある。その議論をきっかけに、制度改革の話につなげることは不可能ではない」と北中さんは言う。今後も国政選挙で低投票率が続けば「さすがに現行の選挙制度の問題点に気がつくかもしれない」と中北さんは言う。あまりの低投票率では、人々の代表としての正統性が疑われるからだ。とはいえ「危険は現状の承認」(岡崎さん)。「棄権はしない。社会への責任として、必ず選挙には行く」と中北さんも語る。無意味なものに意味があることは、ある。無作為が役立つこともしばしばだ。だが無関心に、未来はない。(編集委員・近藤康太郎)

 

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