7月13日 耕論 嫌われ者の消費税

朝日新聞2019年7月9日9面:消費税率引き上げを先延ばしにしてきた安倍政権が、増税を表明し参院選に突入した。過去には増税にかかわった政権の多くが選挙で敗北している。なぜ消費税は、こんなに嫌われるのか。 価値観様々「選挙の鬼門」 伊吹文明さん 衆院議員 1938年生まれ。旧大蔵省を経て83年以来、12期連続で当選。衆議院議長、財務相、自民党幹事長を歴任。 消費税はなぜ選挙で「鬼門」になるのか。それは、税の公平性に対する国民の考え方がそれぞれの立場や育ってきた環境、価値観によって異なるからです。十人十色で唯一の「正解」はない。だから、政治的にも悩ましい問題なのです。民主国家の財政とは、個人や企業の懐からお金をもらい、それをもう一度国民に還元するしくみです。この過程を巡り、国民には「公平だ」「不公平だ」という様々な感情が生じます。
政治家は、これらの多様な意見をよく聴いて穏やかな合意を目指します。時には自分の意見を変えたり、時には相手を説得したりすることも求められます。日々の暮らしで「自分の懐からいくら取られるのか」は誰しも気になります。だから、消費税もどれだけ何に還元されるかより、どれだけ微収されるかが論じられがちです。1989年4月に導入された消費税は、30年かかって、3%から10%にあかがります。消費税は景気の変動に左右されにくく、不景気でも安定的な税収を確保できるのが利点です。私は今よりも民間セクターに余裕があった昭和の時代に導入しておくべきだったと思っています。日本社会は平成を通じて、長寿化と少子化が進みました。年金や医療、介護など社会保障費は膨らみ、一方で、経済は低迷しました。消費税率をなかなか上げられないなか、国の財政は恒常的な借金頼みの体質に陥っています。今年度の国の一般会計歳出は約100兆円。このうち約23兆円は借金や利子の返済にあてられます。前の世代が税金を払わずに借金を重ねたために、次世代の選択肢が奪われているといえます。世代間の負担の公平性からみて決して良いことではありません。消費税と社会保障の関係を考えるうえで、大切なものは、負担と給付の公平性の視点でしょう。日本では、保険料の額にかかわらず国民が平等に医療サービスが受けられます。保険料は所得の多い人が多く払っていますが、その額が増え続けるのは、自由競争社会の原則をゆがめます。だから、全国民が何らかの負担をする消費税と併せて社会保障費を賄うべきなのです。税制は、経済のあり方や国民の生き方と密接に関わります。これからの日本はたとえ耳にやさしくなくても、「国家百年の計」を語る政治家が選挙で当選するような社会風土にならなければいけない。にもかかわらず、今は目先のことをあおって、「無駄遣いさえなくせば、増税なんてしなくてよい」というような情緒的な公約で票を獲得しようとする政党や政治家が増えており、心配です。(聞き手・日浦統)
歳出も見直し納得感を 小谷野敬子さん 戸越銀座商栄商店街振興組合理事長 1952年生まれ。東京・戸越銀座で「真峰電気商会」を営む。2017年、戸越銀座にある一つの商店街の理事長に。 消費税って税金の中でも「取られた感」が強いんですよね。買い物をするたびにレシートに記載される。100円でも8円。見えるだけに嫌になっちゃう。お客さんに請求書を書く時も、1万円で800円は大きいなあとつくづく感じます。だから選挙でも嫌われるじゃないですか。5年前に消費税が5%から8%に上がった時は、戸越銀座でも影響が出ました。たかが3%、されど3%。増税直前は消耗品を買ためるお客さんがいっぱい来ましたが、増税後は買い控えで商店街がしーんとなりました。今回はまだ客足に現れていませんが、飲食関係のお店は大変そうです。店内で食べれば税率10%なのに、持ち帰ると8%。じゃあテイクアウトで買った食品をやっぱり店で食べたら・・? ややこしいことになっています。ここは食べ歩きの街ですからね。増税のタイミングでキャッシュレス毛一切を導入すれば「消費者に増税分がポイント還元され、店も面倒じゃない」と、安倍晋三首相や小池百合子知事が戸越銀座にPRに来ました。でも年配の地元客にはハードルが高いです。店にとっても同じです。中高年が営む小さな商店はずっと現金払いでやってきたので、今さらスマートフォンでピッと決済というわけにはなかなかいきません。地方の商店も同じ悩みを抱えていると思いますよ。増税により、消費者の間でも商店の間でも格差が広がりそうです。誰だって消費税を取られるのは嫌なものです。でも本当に必要なら、国民の義務でもあり、仕方ないとも思います。だから今まで30年間、流されるまま払い続けてきました。納得感はずーっとないままで。そう、問題は納得感だと思います。国は消費増税をする一方で、陸上イージスの配備やら戦闘機の大量購入やらを進める。でも無駄な歳出をカットする方が先ですよね。それに、そういう防衛費に消費税は使われていないのでしょうか。「社会保障に使う予定」とか国は言っているけど、消費税を実際何に使ったかは国民にはよ分かりません。「これに使われたなら、まあいいか」と思えるように明細を出してほしいです。
電器屋を苦労して立ち上げた大正生まれの父は、税金を「血税」と呼んでいました。その分、政治に厳しくて、晩酌しながらよく管を巻いていたわね。私も含めて今の人にそんな意識は薄くなりました。消費税の使途も恩恵も見えず、自分たちとのつながりも見いだせず、ただ漠然と取られている感じです。税金は本来は、社会や自分たちの生活を支えるべきもののはずです。取るならば、とにかく適切に使ってほしい。それ以外にありません。(聞き手・藤田さつき)
「福祉と税」根本議論せよ 野口悠紀雄さん 早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 1940年生まれ。旧大蔵省などを経て一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。「1940年体制」など著書多数。 戦後の日本の税制や財政構造は、戦時中につくられた「1940年体制」を引き継いでいます。消費税が選挙で「鬼門」になってしまうのは、日本人の意識と社会構造が、いまだに1940年体制のままだからです。戦前の日本の税制は、直接税ではなく間接税が中心で、欧州型に近かったと言えます。しかし、1940年体制では直接税、特に所得税と法人税が中心で、所得税の源泉徴収も導入しました。戦争遂行のために、歳入を確保する必要があったからです。歳出面では、社会保障が想定されていませんでした。勤めている企業が一生を保証するという発想だったのです。その財政構造は、高度成長期の60年代までは機能していましたが、徐々に社会保障への要求が強まっていきます。政府は「福祉元年」といわれた73年ごろから、財政構造を「福祉型」へと転換させました。歳出面では年金や医療など社会保障費が巨大化し、税制では消費税など間接税の比重を高めようとしたのです。それにもかかわらず日本社会の構造も、人々の考え方も、変わりませんでした。消費税と年金に代表される福祉型の財政構造は、日本人のメンタリティーに合わないのかもしれません。だから常に選挙の「鬼門」になるのです。今回の参院選でも、野党は、「年金の100年安心を守れ」といいながら、消費税を上げるのには反対しています。大企業や高額所得者に負担させればいいというのは、まさに1940年体制の発想そのものです。これからの日本には、二つの選択肢があります。一つは、消費税率をこれ以上引き上げずに、定年延長や、健康が許す限り働き続けることで老後の保障を実現する方法。いわば1940年体制を維持するやり方です。もう一つは、消費税を北欧諸国なみに引き上げ、社会保障で一生の面倒を見る福祉国家をつくる。つまり、1940年体制からの脱却です。この二つのどちらかを採るのかという根本的な議論はされてきませんでした。本来なら2千万円問題を契機に、参院選でその議論もすべきなのですが、与党も野党も見当外れの議論しかしていません。一方で、国民は現実を冷静に見ていると思います。6月にネットでアンケートをしたのですが、「金融庁の報告書をどう評価しますか」という問いに、8割近くが「老後資金に関する適切な注意だ」と答えた。年金だけで生活できないことは多くの人が理解しています。そうした国民の健全な感覚を政治に反映させることができれば、戦後の日本を縛ってきた1940年体制から脱し、消費税と年金が鬼門でなくなる日がくるかもしれません。(聞き手・シニアエディター・尾沢智史)

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