7月12日 IT教育 湧き上がるけれど

朝日新聞2019年7月7日4面:人工知能(AI)が身近になる時代、子どもたちに必要な教育とは、コンピューターのプログラミングなのか。それともー。「開発タイム、スタート!」 メンターと呼ばれる大学生らの一声で、小学生が一斉にパソコンに向かった。5月中旬の土曜日、東京・渋谷駅近くのテックキッズスクールには、小学2~6年の約100人が参加した。コンピューターを動かすプログラミングを学ぶ教室で、ゲームやアプリづくりに取り組んだ。最初は米マサチューセッツ工科大が開発したソフトを使い、ゲームをつくるなどして基礎を学ぶ。高学年は、iPhone向けのアプリや3Dゲームの開発に挑戦する。IT大手サイバーエージェントの子会社が首都圏をはじめ26教室を展開し、小学生約1500人が通う。小6の長男を渋谷の教室に連れてきた東京都国立市の会社員、吉兼哲哉さん(50)は「AIやキャッシュレスなどデジタル化が進む社会に出たとき、子どもに役に立つものを学ばせたい」と話す。誠将君(12)は「人を笑顔にできるゲームや、人の役に立つアプリをつくりたい」。船井総合研究所とGMOメディアの調査によると、2013年には約750ヵ所だったプログラミング教室は昨年1月に4457ヵ所に増え、今年に入り前年の1.5倍の6666ヵ所に急増した。少子化に直面する教育市場で珍しい成長分野とあって、教育やIT業界以外にも異業種の参入が相次ぐ。市場規模は30年に1千億円を超え、現在の英会話教室の市場に肩を並べるともいわれる。模型で有名なタミヤは、システム会社と協力し、全国94教室を展開する。東京都内などで9教室を展開する東京メトロは「少子高齢化で路線人口も減る。鉄道以外の事業を育てていきたい」と説明する。家電量販のエディオンは全国200教室をつくる計画だ。教室の運営には、学習塾や「地元企業などとフランチャイズ(FC)契約を結ぶケースが多い。だが、競争の激化で1教室当たりの生徒数は減り、利益率が早くも下がる傾向にある。それでも、「年間営業利益1千万円!?」「手つかずの市場は早い者勝ち!」と教育の質より稼ぎをアピールし、契約先を集める広告を出す中小の業者も現れた。業界からは「もうバブルだ」との声もあがる。 指導者確保 悩む地方 地方では、過熱する都市部とは違う悩みを抱えている。鹿児島市から南に約470㌔、鹿児島県徳之島町で6月10日夜、プログラミング教室が開かれた。「みんなで全国コンテストに挑戦しよう」と、メンターの丸山勝司さん(45)が小中学生7人に呼びかけた。1月に始まった教室は町が運営し、週2回開かれる。最大の悩みは指導者の確保だ。町にはメンター役は2人しかいない。
丸山さんは福岡市出身。NECグループの企業に勤めていた6年前、営業で徳之島を初めて訪れた。豊かな自然に触れ、「町の活性化に役立ちたい」と16年に退職して島に移り住んだ。丸山さんに定着してもらおうと、地元の観光連盟は事務局長のポストを用意した。教室に小学6年の長男を通わせる主婦の黒須さゆりさんは「離島で学べるのは貴重な機会です」と歓迎する。離党にはパソコンのない家庭も少なくない。丸山さんは「この教室で培ったノウハウを島の小学校全体に広げたい」と意気込む。20年度から小学校でプログラミング教育が必修化されるのは、将来AIやIT分野を担える人材のすそ野を広げる狙いがある。文部科学省の調査では、全国の自治体の5割が一部の小学校で先行してプログラミング教育を始めた。しかし、その多くは都市部で、町村などの小さな自治体は後れを取っているのが現実だ。高岡秀規町長(59)は「いろいろな道を子どもたちに選べるようにしてあげるのが行政の役割だ。教育環境の格差は将来、人材としての差につながりかねない」と話す。 AI社会こそ「読解力必要」 最先端のIT教育よりも、前にすることがもっとあるはずだー。5月9日、都内であった全国町村教育長会の研究大会で、国立情報学研究所の新井紀子教授(56)が講演した。「AIができることは、人間もまあまあできる。AIができないところほど、人間もできない。このままだと、読み解く力がない子どもたちは、労働市場から追い出される」 新井教授は、東大入試に合格できる力をAIにつけさせるプロジェクトを主導したことで知られる。16年には難関私大に「合格可能性80%以上」と模試で判定されるまでになったが、新井教授はプロジェクトから降りる決意をした。中高生にテストを解かせ、人間の読解力を分析しようとしたところ、その多くが文章の内容を正確に理解していないことに気づいたのだ。新井教授は、子どもたちが文章や図表の意味をどれだけ早く正確に理解できるかを診断する「リーディングスキルテスト(RST)」をつくり、教師たちと一緒に授業のあり方を考える活動を始めた。
「オセロの実況中継をしよう」。昨年10月、東京都板橋区の区立板橋第六小学校で教壇に立った新井教授は「黒玉と白玉が三つずつ、たてに一列にならんでいる」という状況を再現する問題を小学4年生に出した。白玉と黒玉を交互にしたり、三つずつ2列にしたりと、誤って並べる姿が目立った。新井教授は授業の後、今のままでは中学に進んでも理科の実験ノートがきちんととれない、と教員たちに訴えた。板橋区は今年度から3年間、小学6年と全中学生計約1万3千人にRSTを年1回受けさせ、その結果をもとに中学1校と小学3校で授業の研究に取り組むことにした。「子どもたちが活躍する30年の社会を見通し、AIに代替えできない力を伸ばしたい」と中川修一教育長(61)は狙いを語る。区内の中学生たちがRSTを試験的に受けたところ、四つの選択肢から答えを選ぶテストの正答率は3割だった。読解力が足りなくなった原因について、新井教授はこう考える。「親切心で生徒たちが穴埋め式のプリントをつくると、子どもたちはキーワード以外の部分を読み飛ばすようになる」板橋では、先生たちが「子どもたちは本当にわかっているのか」を少しずつ意識しながら授業をするようになってきた。RSTは京都府や福島県、埼玉県戸田市などでも採用されている。AI社会を生き抜く本当の力とは? 教育現場での問い直しが始まっている。(編集委員・堀篭俊材)

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