7月12日 変わる大学入試 TOEIC 実施9カ月前の離脱

朝日新聞2019年7月9日17面:2.2万人が受験希望 共通テスト成績提供の日程や方法で折り合えず 「文科省とセンターの準備不足」高校から不信感 2020年から始まる大学入試共通テストで活用される英語の民間試験から、TOEICが離脱することになった。なぜ、実施まで9カ月を切ったタイミングでの決断だったのか。日本での実施団体は「成績提供のシステムに合わせることが困難だった」と話すが、高校の現場からは「共通テストの実施に向けた準備不足が露呈した」との声が上がる。「受験するために勉強していた高校生たちには、大変申し訳ない」。国内でTOEICを実施する国際ビジネスコミュニケーション協会(東京)の山下雄士常務理事は、離脱が本意ではなかったと説明する。米国の団体「ETS」が作るTOEICは、ビジネス向け英語の試験として各国で実施されている。特に日本で人気で、社会人や大学生を中心に年間約250万人が受ける。山下氏によると、受験で使う大学が増え、高校生も約6万人が受けることを踏まえ、大学入試共通テストでの活用に向け申請を決めた。大学入試センターは昨年3月、TOEICを含む8種の試験を20年度に活用できる民間試験として認定した。この際は「『読む・聞く・話す・書く』の4技能を1回の試験で評価しているか」などが判断基準だった。だが、実施に向けた協定締結への交渉で、新たな問題が判明した。山下氏によると、TOEICにとってネックとなったのは、「L&R(聞く・読む)」と「S&W(話す・書く)」を別々のテストとして行っていることだった。当初は2つのテストの結果を協会で統合し、センターに提供する予定だった。ところが、認定後のやりとりの中でセンターは7月、9月、12月と3回に分けて成績提供を求めた。大学入試の総合型選抜(現在のAO入試)、学校推薦選抜(同推薦入試)、一般選抜の実施時期に合わせたタイミングだが、TOEICにとっては困難だった。「S&W」の試験会場は席数に限りがあり、「L&R」と申し込み期間や締め切り日が異なる。この結果、受験生が希望した日時や場所の通りに「S&W」を受験できない場合があり、3回の締め切りに合わせた成績提供も難しいという。協会は、大学受験生を対象に、特別な試験日や優先申込枠を用意することを検討した。だが、試験日はETSや試験を実施する各国と調整して決められていること、優先申込枠は一般銃剣者の不利益になることなどから、断念せざるを得なかった。山下氏は「最終的に、現状の仕組みを維持しながら、決められた日までに受験生の成績を確実に提供できるシステム作りは難しいと判断した」と話す。
文科省の昨年度の調査では、共通テストでTOEICを受ける意思を示した高校生は全体の1.8%(延べ約2万2千人)だった。愛知県の高校では、TOEICを受験するつもりで勉強している2年生がいるという。進路指導担当の教諭は撤退について「決定が遅すぎる。何を頼りに指導していいかわからなくなった」と憤る。一方、東京都の私立高校教諭は「今回明らかになったのは、文科省とセンターの準備不足と作業の遅れだ」と話す。「無理をして迷惑をするのは受験生だ」として、「20年度の実施ありき」に疑問を投げかける。香川県の高校教諭も「問題は他の団体も同じではないか。連鎖反応のように取り下げが続かなければいいが」と心配する。全国高校長協会元会長の宮本久也・東京都立八王子東高校長は「TOEICを受けるつもりだった生徒への影響も大きいが、信頼がある団体の撤退で、高校側にはシステム全体への不信感が一気に高まった」と指摘する。「文科省もセンターも『安心して』と言うだけでは、生徒たちの不安は解消できない。公平性・公正性をどのように担保しようとしているのか、はっきりと根拠を示すべきだ」 センターはこれまでに協定を結んだ実施団体はないものの、いずれも7月中に締結予定だという。「予定通りに参加する方向で準備が進んでいる」とし、TOEIC離脱の影響はないとしている。だが、ある団体の関係者は、「文科省も入試センターも、高校や大学、国会などから上がる要望を、実行可能かどうかも考慮せず、業者に投げてくるケースが多い」と、不信感を打ち明ける。入試に詳しい大学関係者も、実施団体の状況を注視している。約50万人が受ける共通テストでは、受験生の多様性に対応するため、様々な例外規定が必要だが、これらに対応するためにはシステムがかなり複雑になる。一方で文科省からは受験料の値下げなどを求められているが、「相当の受験生を確保できない限り、団体はコスト面で採算が合わない」と指摘する。受験生が増えれば、様々なトラブルも予想される。この関係者は「トラブルの内容によっては、試験への信用が失われる可能性がある。そうしたリスクを避ける意味で、共通テストから離脱し、資格試験に徹する判断は賢明だ」と語る。(増谷文生、編集委員・氏岡真弓)

 

 

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