7日 アベノミクスの罠【下】

朝日新聞2017年3月4日6面:官製相場 遠のく出口 「上場投信 東証ETF」。東京都中央区・兜町にある東京証券取引所の東口入り口には大きなロゴが掲げられている。数万円でも投資できる人気のETF(上場投資信託)だが、実は最大級の買い主は日本銀行だ。昨年の購入額は4,4兆円で、年間の日本株の購入でも最大となった。
日銀によるETFの大量購入が続くことに対する警戒感も市場には漂い始める。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘氏は「公的マネーに依存する構図が史上にできあがり、日銀がETF購入を減らせば、株価が下落する可能性がある」と指摘する。
日本のように政府部門が株式を大量に購入する異例の政策には、似たような例がある。1998年8月、アジア通貨危機に襲われ、株価が大暴落した香港だ。香港政府は、株式先物と香港ドルの投機売りを仕掛けたヘッジファンドに対抗するため、わずか2週間で当時の香港市場の時価総額の約6%にあたる約1180億香港ドル(現在のレートで約1.7兆円)を投入して、株式を買い入れた。
当時、香港が培ってきた「自由市場」というイメージを損ねると、学者やメディアから厳しく批判されたが、株価は急上昇し、香港ドルの米ドル連動(ペッグ)は守られた。
一方、買い入れた株式をどう放出するかが課題に残った。政府の保有株を市場で一気に売れば、株価急落は避けられない。専門家らを交えて検討した結果、複数の株式でつくるETFにより放出することを決めた。単独で株を売るよりも、市場に与える悪影響が小さいとの判断だった。
買い入れから約1年後の99年秋から、香港政府は段階的に放出を始めた。最後の売り出しとなった2002年までの間に株価は回復して、政府は1650億香港ドル(同約2.4兆円)超の収入をあげた。
市場の安定を取り戻したうえ、売却益も確保できたことで、一連の介入と放出は「成功した」との評価が定着している。香港中文大学グローバル経済・金融研究所の荘太量・常務所長は、日本に対し、「放出のタイミングの見極めに加え、時間をかけて段階的に売り、市場を混乱させないことが大事だ」と語る。2週間の危機対応の後始末に香港は約3年をかけた。これに対し、8年目に突入した日銀のETF購入はまだまだ続く。規模も香港を大きく上回る。
大きすぎる日銀の存在感 「隠れた大株主」としての日銀の存在感はさらに増す。ETFを通じ、日銀が間接保有する個別企業の株式の割合は今後も高まるからだ。ユニー・ファミリーマートホールディングスは昨年末時点で日銀が間接的に12.4%を保有する。今年度末には、保有比率は15.5%に拡大する。
ETF購入を日銀はいつまで続けるのか。黒田東彦総裁は、昨年12月の会見で「金融市場や物価の動向によって、金融緩和政策全体の中で考えることになる。株価の上下でやめるとか、拡大するとかは考えていない」と語った。日銀は年6兆円のペースで購入するETF以外にも、国債を年80兆円、上場不動産投資信託(Jリート)も年900億円買い入れる。ETF購入を減らせば、日銀が出口を探り始めたと市場は受け取り、国債やJリート市場も大きく動揺する可能性がある。
ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏は「日銀はデフレ脱却という目標を達成できず、ETF購入をやめようにもやめられなくなっている。購入が増えるほど、その出口に向かいづらくなっていく」と話す。
アベノミクスによる公的マネーがつくりあげた「官製相場」は、出口がどんどん遠のく迷路に入り込んでいる。(神山純一、香港=益満雄一郎)

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