6月7日 未来からの挑戦「8」

朝日新聞2019年6月2日4面:AI時代の工場狙うは世界標準 人口知能(AI)など先端技術の発展は、ものづくりのあり方も変えていく。機械が自ら通信し、必要な部品を定配する。そんな「未来の工場」の世界標準を占めようと、競争が激しさを増している。ステージ上に、高さ70㌢はどの箱形のロボットが現れた。自動車部品大手の独ボッシュが開発した自立型の輸送車両だ。通信や給電はすべて無線。人間の姿もほとんどない。背後の大型スクリーンにコンピューターグラフィックで描かれた「仲間」たちと何やら通信し、AIの判断で工場内を動き回る。主役は、現実世界とコンピューター上の仮想世界を垣根をなく行き来するデータだ。
4月、ドイツ北部で開かれた世界最大級の産業見本市「ハノーバーメッセ」。おひざもとの独メーカー各社は「つながる工場」や「スマートファクトリー」など、さまざまな言葉をアピールした。大量生産から脱却し、無駄なく細かな需要に対応する。生産設備はすべてセンサーでインターネットに接続し、コンピューター上で管理。熟練工がいなくても、AIが設備の故障を予知し保全するー。そんな「未来の工場」では、AIが「故障」を予防するのは機械だけでない。工場作業員が肩から太ももに巻くように付けたベルトには、さまざまなセンサーが埋め込まれている。AIが作業する人々の癖や過去のけがの例を分析した結果と照合し、着けた作業員が腰痛を起こしやすい姿勢だと判断すると振動で警告する。フラウンホーファー研究機構が同メッセで展示したロボットだ。
同機構のヤン・クーシャンさんが説明した。「言葉が分らなくても正しい動きが覚えられる。けがで職場を離れる人が減れば、企業はより効果的になれる」ドイツは2011年、ITを活用し中小企業も巻き込んで製造業の効率化をまざす「第4次産業革命(インダストリー4.0)」という政策を提唱した。蒸気機関による機械化が始まった第1次、電力が大量生産を可能にした第2次、電子工学などで自由化が進んだ第3次に続く「次」の技術革新をドイツ発で進めるのが目標だ。提唱から8年、AIの発展とビッグデータの活用が本格化した今、「ついに利益を生む段階になった」とボッシュのマーク・ブーハラーさんは話す。第4次産業革命を推進する機構「プラットフォーム」(ベルリン)事務局のヤニーナ・ヘニングさんは、メッセの会場を見渡しながら言った。「10年後には、メーカーといえども機械や車をただ売るだけではだめになる」(渡辺淳基=ハノーバー、田幸香純)
独・米・中 官民交え競争激化 ものづくりの国際規格を作る争いは歴史は長い。現在、世界中のメーカーが範とするISO(国際標準化機構)規格は1990年代以降、欧州主導で普及。元はフィルムやネジなど主に工業製品の規格だったが、環境保全手法にまで分野が広がると、日本でも多くの企業が取得を迫られた。ドイツが第4次産業革命で見すえるのも、製造業の国際標準だ。シーメンスやボッシュなどドイツの大企業は、製品や設備の番号(コード)の共通化を始めた。人を介さず機械同士が瞬時にやり取りする国際的な部品供給網(サプライチェーン)で自国のやり方を普及させることができれば、他国メーカーとの競争で優位に立てるとの思惑がある。
第4次産業革命は成果を見せ始めている。ドイツのハイテク業界団体ビットコムは、関連の売上高が18年、72ユーロ(約8800億円)に上ると予測する。その行き着く先は「AIが人の雇用を破壊する」状態になりかねない。それでもドイツには、00年代以降の「IT革命」で米国に後れを取った傷の方が大きい。「ITではマイクロソフトやグーグルなどに抑えられた。そして今、自動運転を打ち出すテラスも登場した。このままでは、製造業でものみ込まれるという警戒感がドイツにはあった」。日立製作所でIT統括本部長などを務めた大野治さんは語る。米国も、データによる製造業の革新に乗り出している。ゼネラル・エレクトリック(GE)を中心に、インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)という団体が14年に発足。200社超が参加し、生産設備のデータ分析などを進めている。競争は先進国間だけではない。15年、「中国製造2025」を発表し、品質や生産で世界のトップグループに入る目標を掲げた中国。その翌年、中国家電大手がロボットメーカー「クーカ」を買収したことは、独国内の警戒感を強めている。
日本 企業グループが壁に 「欧州はルールづくりが得意で、国際機関で多数派をつくりやすい。米中には国内に巨大市場がある。日本の環境は厳しい」と大野さんは指摘する。日本に望みはない。昨年12月、工作機械の制御装置をつくる安川電機の新工場「安川ソリューションファクトリー」が埼玉県入間市で本格的に操業を始めた。中には「箱」のようなものが20個ほど、整然と並んでいる。よく見ると、それぞれの中には生産用のロボットがあり、バラバラに動いている。部品の形に合わせて自ら動きを変え、生産状況に合わせて必要な部品を自ら運ぶ。すべて自動管理されており、約1千種類という多種の製品を少量から、無駄なく作ることができるしくみを実現した。活用したのはやはり、AIやビッグデータだ。熟練の枝が必要になる作業数も約45%減らし、検査工程の自動化も可能にした。働く従業員も従来型工場の3分の1に減らせ、生産効率は3倍に高まったという。
ドイツが第4次産業革命なら、日本は「ソサエティー5.0」ー。経団連と政府が16年に打ち出したことの言葉には、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会と発展してきた日本を、AIやデータを活用した「超スマート社会」に変えていくという気構えが込められている。ただ、先行するドイツの背中はまだ遠い。18年の中小企業白書によると、製造業でAIやビッグデータなどの先端技術を一つ以上活用している中小企業は全体の1割程度にとどまる。政府が主導する「ロボット革命イニシアティブ協議会」で産業のスマート化を担当する水上潔さんは「日本はこれまで、企業グループ内で従業員の質を高めて技術的な競争力を維持してきた。しかし今や、グループごとの高い壁はマイナスに作用する。中小企業を含めて情報の共有に時間がかかっていては、AIやロボットが「主役の世界では勝負できなくなる」と警告する。

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