6月5日 ロスジェネはいま「下」レール外れ切り開く道

朝日新聞2019年5月30日3面:NPO・ベンチャー・・組織頼らず ちょうど就職氷河期だった。フリーターか、それとも悪徳セールスで稼ぐか。鈴木和樹さん(38)は高校卒業のころ、その二つの道しか見えなかった。幼い頃、両親が離婚、静岡県に住む祖母に引き取られ、生活保護で暮らした。誰に助けを求めたらいいのか分からず、空腹に耐えていくため、大手人材会社で日雇い派遣の仕事をした。要領の良さが買われ、正社員にならないかと声がかかる。
派遣労働が急速に拡大する時期と重なっていた。登録スタッフの多くは自分と同様、バブル崩壊後の就職氷河期に社会に出たため、安定した職につけなかった世代「ロストジェネレーション」だ。偽装請負や不当な給与の天引きが横行する。いつも誰かをだましているような日々に心身が限界を迎え、会社を辞めた。次に働いたのはインターネットカフェ。働く貧困層「ワーキングプア」が問題化した2006年に店長になった。そこで寝起きする人たちの現実を知った。
ある日、常連客だった高齢の男性が地下道で寝ていた。年金を担保に借金して追い詰められたという。見かねて一緒に役所に行き、生活保護につないだ。その出来事をきっかけに始めたのがホームレス支援の活動だ。今、NPO法人「フードバンクふじのくに」(静岡市)の事務局次長などを務める。ネットを通じて食料支援の受け付けができるシステムの開発など、多くの人の「助けて」の声をキャッチできる仕組みづくりを進めている。生活保護、日雇い派遣、ネットカフェ難民。ロスジェネとして貧困の現実を体験したことが鈴木さんの人生を変えた。「不思議なんですが、これまで経験したことがすべて今の活動で役に立っています」
 地方議会変えた 大学卒業後の最初の就職先で、継続して働いているか。連合総研が16年に調べたところ、男性ではロスジェネとその前の世代の間に断絶がみられた。45~49歳の52%が継続していたのに対し、ロスジェネ世代では40~44歳で38%に落ち込み、35~39歳も43%だった。終身雇用の枠組みから外れ、割を食った世代。組織に頼れないからこそ開ける道もある。日本社会がロスジェネを生んだのなら、政治の力で社会を変えられないか、と考える人たちも、この世代から生まれた。長崎県大村市の市議会で3月、議会運営委員長だった村崎浩史議員(39)が、園田裕史市長(42)に論戦を挑んだ。
いずれも地盤、看板(知名度)、カンバン(資金)のない無所属で、07年に同時に市議選に立候補した。無謀な挑戦だと受け止められたが共に当選し、園田さんは3期目途中で市長に転じ、今に至る。1期目に一緒に取り組んだ成果は、市議会の標準ルールになった。今ではすべての議員にタブレット端末が配布され、質疑中の議員にSNSで市民からの激励や注文が飛び込む。ロスジェネ政治家の登場が地方議会のあり方を変えた。村崎さんは言う。「割を食ったロスジェネ世代として、必然的に感じる世の中への疑問や反発が政治に向き合う原動力だった」政治家を志し挫折したことで独自の道を見つけた人もいる。溝川裕也さん(38)は07年、「人に感謝される仕事のプロになりたい」と堺市議選に立候補し、落選した。切り替えて、公認会計士を目指した。2年近く勉強して合格し、16年に大阪市内で事務所を開く。「地域を元気にしたい」という思うから、「飲食店専門」の看板を掲げている。「レールに乗る人生をイメージできない分、所属や組織に頼らずに生きていけるのがロスジェネ世代の強さ」と考える。
IT進化生かす ロスジェネが世に出たのはインターネットが爆発的に社会に浸透した時代でもあった。情報技術(IT)の進化はこの世代に新たな可能性をもたらした。内山達雄さん(42)は1997年に横浜市の関東学院大工学部(当時)を中退した。その年の秋、山一証券の経営破綻をはじめとする金融危機が起き、3年後には大卒の求人倍率が1を割った。就職氷河期の厳寒で、内山さんが選んだのは、とび職だった。横浜の建設会社に勤め、後に正社員になって営業職を担った。働きながら、興味を持ったITを独学し、12年に仲間とITベンチャー「ハンズシェア」を創業する。建設業界での経験を生かし、人手が足りない現場と仕事を求める業者とをマッチングするシステムを開発した。現在の登録数は3万件で、かかわった建設工事の予算は総額200億円を超えている。
「レールから外れたのがよかった。大学をきちんと卒業して、変なプライドを持っていたら、さえない感じになっていたと思う」と内山さんは振り返る。就職氷河期という逆風に苦しみ、不安定雇用にさいなまれたロスジェネ世代。一方で、組織に依存せずに自らの力で道を切り開く人たちも、この世代から生まれている。それはコインの表と裏なのだろう。「ロスジェネが救済されずに放置されたことはほぼ予想通りだった。平成という時代は日本が何も変わることができなかった30年だった」同じ世代の人事コンサルタント、城繁幸さん(46)は話す。「ロスジェネは、上の世代のように流れに身を任せることができず、選択を迫られた世代だった。これからは、自分で道を選ぶロスジェネ的な生き方が普通になる。若い世代で起業を志す人が増えているのも、その表れです」
この世代に、ゆるぎなく敷かれたレールはない。それは、不運であると同時に強みにもなる。経団連トップが「終身雇用」の限界を公言する令和の日本。道なき道を歩いてきたロスジェネたちの生き方が、人生100年時代の道行きを照らす光源になるかもしれない。(編集委員・清川卓史、石松恒、角拓哉)

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