6月26日 挑戦 ふるさと納税「中」

朝日新聞2019年6月20日7面:「何もない町」意外な祭り ふるさと納税の寄付額を2年で380倍弱に増やした岩手県矢巾町。役場のエース、町企画財政課の吉岡津司課長(48)が練った町の再生計画に、10歳近く年下の民間コンサルタントが待ったをかけた。「これでどうお金につなげるんですか。誰がやるんですか」。町の資料を読んだ楽天(東京)の柘植正基さん(39)が矢継ぎ早に質問する。「絵はきれいでも、矢巾の良さがここからは伝わってきませんよ」 吉岡さんは言い返せなかった。アウトドアを楽しんで温泉につかり、地元の食材を食べられる「健康の町」。さもありなんな計画だが、どの施設も公営で老朽化が進んでいた。大きなホテルもなかった。ただ、柘植さんが真剣に町の将来を考えていることは分かった。2016年の春、楽天からアドバイスをもらうことをその場で決めた。
その年の初夏、吉岡さんと柘植さんは、町内の商店や農業を訪ねて回ることから始めた。町の課題や名所、名産品を洗い出し、全国にあまたある自治体の中で、ほかにはない魅力を見つけ出そうとした。田んぼを視察して柘植さんは驚いた。かがんで泥の匂いを嗅ぐと、ヨーグルトのような香りがした。かつて南部藩主に献上していた地元特産の「徳田米」を育てる際、有機肥料が発するものだった。「え、なに、これ」。柘植さんは目を丸くした。キャベツをかじれば「何もつけなくても食べられる」。シイタケを食べれば「生で食べれるんだ」。一つひとつに感動した。「矢巾のブランドをつくれば、選んでもらえる」。柘植さんは直感した。
柘植さんは月1回ほどのペースで調査のために町を訪れるようになった。ブランドイメージを考えるため、町の職員と会議を重ねた。きれいな空気、山、川、酒。柘植さんは「どれも魅力的だけど、どこでもある」。その町にしかない「らしさ」を前面に押し出す必要があった。「2年に1回、町民3千人が集まる大運動会があるんですよ」。夕方、疲れて雑談をしているとき、ある職員が地元の恒例行事の話を始めた。「そんなの聞いたことない」。柘植さんが食いついた。聞くと、ほかにも無病息災を願って顔に炭を塗り合う「スミつけ祭り」や、「ちゃぶ台返しの世界大会」があるという。住民にとっては当たり前すぎて、外向けの観光案内には載せていないイベントだった。とがっているー。「元気」という言葉が柘植さんの頭に浮かんだ。「楽しい人たちがいる。それがこの町の魅力だ」。何もないと思われていた町の個性を見いだした。「自分たちは地元のことを何も知らなかったんだと気づいた」と吉岡さん。さっそく地場産品をふるさと納税の返礼品として発信する戦略を練り始めた。だが、生産者たちの腰は重たかった。(加茂謙吾)

 

 

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