6月13日 軍事のリテラシー考えるとき

朝日新聞2019年6月7日26面:自衛隊の初の実戦描写ー映画「空母いぶき」から見る 海外の軍隊に武力占拠された孤島を奪回するため、自衛隊が初の実戦を経験するという映画「空母いぶき」が公開中だ。中国の軍拡などで「脅威論」も高まる中、私たちに求められる「軍事のリテラシー」は何か。映画を通じて考えた。
映画の舞台は20xx年。角の新興国「東亜連邦」が沖の鳥島の西方にある島に武力侵攻する。出勤した護衛艦隊を東亜連邦側はミサイルで攻撃。政府は戦後初の「防衛出動」を命じ、自衛隊は武力による反撃を開始するー。原作は漫画家かわぐちかいじさん(70)が2014年から「ビッグコミック」で連載中の漫画作品。「いぶき」は空母から離着陸できる戦闘機F35Bを搭載する新型護衛艦だが、現実でも18年末、護衛艦を改修してF35Bを運用する方針が決まった。
作品づくりには軍事ジャーナリストの故・恵谷治さんが協力。かわぐちさんと恵谷さんは「日本の広大な領海や島々を守るには、自衛隊は空母を持つ方が現実的かも知れない」という認識を共有していた。「実際に尖閣諸島への武力侵攻が起きた際、日本はこう対応する可能性が髙いというモデルケースを提示したかった」(かわぐちさん) 劇中では、専守防衛の戦闘を貫き、国家間の全面戦争に拡大させないためのギリギリのせめぎ合いが描かれる。自衛隊は相手の死傷者を最小限にするため、ミサイル攻撃を行わずに危険を冒して接近し、直接射撃で相手艦の攻撃力を奪う。
『平和のための戦争論』などの著書がある植木千可子・早稲田大アジア太平洋研究科教授(国際関係論・安全保障)は「日本以外の国でも、先頭を拡大させない自制の努力が払われており、実例も多い。映画では『戦う覚悟』と同時に『戦わないことの勇気』が描かれている。護憲平和を貫くべきだと考える人も、日本の防衛力を強化しようという立場の人も考えさせられる内容では」と話す。ただし、安全保障の本質は「いかに戦うか」ではなく、軍事や外交、経済政策と組み合わせることで「いかに戦いを起こさせないか」という事前の努力にあるという。敗戦後の日本では軍国主義への反省から、社会から軍事的なものを排除することで平和を保とうとした。「当時の選択が間違いとは思わないが、日本では1990年代まで『国益』『戦略』などの言葉さえタブーとなってしまった。けれども、現実の平和を守るには、国民が軍事についての知識を持つことが不可欠だ」(植木教授)『日本の安全保障』などの著書がある桜美林大の加藤朗教授も、「14年に政府が集団的自衛権の行使を容認するのを阻できなかったのは、反対派が現実に根ざした護憲的な安全保障政策を示せなかったからだ」と指摘する。
専門家 防衛 我が事として議論を では、安全保障を巡る環境はどう変化しているのか。現役自衛官として各国の海洋戦略を分析した著作『海洋戦略論』を2月に刊行し、民間の研究者からも注目される海上自衛隊・後潟桂太郎2佐(46)によると、偵察衛星や指揮系統のネットワーク化など技術革新で、他国に武力で進出しようとしても、すぐに手詰まりとなる可能性が高まり、核戦争はもとより通常兵力による大規模な武力衝突のリスクも低下している。一方で「他省の小競り合いをしても大規模な戦争にはエスカレートしない」との見通しから、継続的な対立や小規模の紛争が起きる傾向は逆に高まった。中国が南シナ海を実効支配しようとしているものその一例という。中国は90年代以降、軍拡・近代化を進め沿岸部に米軍を近寄らせない能力を高めた。10年ごろ以降は空母、攻撃型原子力潜水艦などで外洋での制海能力も強化している。そんな中、日本政府が「いずも」型護衛艦を改修し戦闘機の運用を決めたのは「主として洋上での防空力を高め、自身の制海能力を向上させるため」と後潟2佐は分析する。19年度の防衛予算は5年連続で過去最大だ。F35Bの購入・配備については、「米国の『バイ・アメリカン』圧力に屈した」との見方や「専守防衛の域を超えた」との批判も強い。空母は潜水艦からの攻撃に弱く、費用対効果を疑問視する声もある。F35Bの空母搭載はオーストラリアでも検討されたが、民間の専門家らの参加した議論の結果、見送られた。
植木教授はこう指摘する。「日本では『十分な効果を持たない兵器を買ってしまうと、自国の安全を守れなくなる恐れがある』という危機感が薄い。護衛艦にF35Bを搭載することで、私たちが守りたいものを本当に守れるのか、人々が議論し、議会がチェックする必要がある」福祉や経済政策と同レベルで、防衛政策を国全体で議論する。それが民主主義で求められる「軍事のリテラシー」ではないか。(太田啓之)

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