6月1日 人口規模大きな世代 影響深刻

朝日新聞2019年5月27日2面:遠い結婚 少子・高齢単身 自分たちの世代が生きていくずべとして、結婚を焦っていたのかもしれない。関東地方に暮らし、中小企業でパートとして働く46歳の女性は思う。東京・世田谷の閉静な住宅街に住み、専業主婦になり、子どもには海外留学をさせてー。そんな夢を持って33歳の夏に結婚情報サービスに入会した。「医師・歯科医、東大早慶大卒、年収1千万円以上のいずれか」という「ハイスペック男性」コースで、入会金は男性より高く30万円ほどだった。就職氷河期に社会に出た世代「ロストジェネレーション」。30歳を過ぎて母親が亡くなり、都内の家賃5万円弱のアパートで一人暮らしをした。派遣社員として企業のデータ入力作業をし、正社員並みに働いたが手取りは20万円台前半だった。結婚は「豊かな生活へジャンプできる大きなチャンス」だと思った。紹介された医者や経営者2.3人と会ったが、本当に楽しいと思える人はいなかった。結局、飲み会で知り合った年下の自営業の男性と40歳で結婚したが、セックスレスになり、価値観の違いも気づいた。いまは離婚を考えている。
「男性に髙い条件を求めていた当時は、『結婚を夢見る夢子ちゃん』だったのかもしれません。いまも独身の友達は多く、私のように子供がいない夫婦もたくさんいる。早く結婚して子どもをつくるのが当然だった親の世代とは、家族のあり方が変わっています」国内の婚姻件数は、ほぼロスジェネの親に当たる団塊世代が25歳前後だった1970~74年にかけ、年間100万組をい超えていた。それが右肩下がりとなり、2017年には半分近い60万組に減った。50歳まで結婚したことのない「生涯未婚率」は、15年の国税調査をもとにした分析では男性で約4人に1人、女性で約7人に1人になった。ロスジェネは、団塊ジュニアの第2次ベビーブーマーといわれる大きな人口の膨らみを含む。この世代を不安定雇用に追い込み、加えて非婚化が進んだことで、第3次ベビーブームは起きなかった。ロスジェネ世代でもある作家・活動家の雨宮処凛さん(44)は、この世代の女性たちは「社会から見えにくい存在」だと言う。「昭和の日本では非正規雇用の女性も結婚することで家庭に吸収されていた。今は1人で生きなければいけない女性が増えており、私も友人たちも、結婚せずに老いていく現実を突きつけられている」
ひきこもり憂慮 少子化と同時に進むのが単身世帯の増加だ。山田昌弘・中央大教授(家族社会学)は、この世代が年を重ねて高齢単身者が増えることにより、社会的孤立が深刻化すると警鐘を鳴らす。「男性は正社員のルートから外れたら、女性は正社員と結婚できなかったら、ロスジェネの親の世代までは、配偶者や子が介護などの面倒をみたが、これからは頼れる人がいないまま高齢になる人が増えていく」 懸念されるのが、仕事や社会参加をせずに孤立する「ひきこもり」だ。40~64歳の中高年ひきこもりが全国に約61万人いるという衝撃的な推計を内閣府が公表したのは3月末だった。中高年のひきこもりが社会問題として注目される背景には、人口規模の大きいロスジェネ世代が30代後半から40代後半にさしかかっていることがある。長くひきこもる40~50代の子どもを、70~80代の親が支える。いわゆる「7040問題」「8050問題」の深刻化もまた、この世代がかかわっている。「労働環境の悪化もひきこもり増加の理由になっているんじゃないか」。昨年9月に都内であった「ひ老会」(ひきこもりと老いを考える会)のミーティングで、さとう学さん(41)は熱を込めて話した、ひ老会はひきこもりの高年齢化に直面する当事者や経験者らが集い、語り合う場だ。さとうさんは計20年近いひきこもり経験がある。30代のとき、ひきこもりから脱して働いたパート先の会社で、自社商品の買い取りを強いられる「自爆営業」やパワハラの被害にあった。約5年で退職し、再びひきこもった。そんな自身の経験をふまえて言う。「ひきこもりの中高年が働き始めたとして、そこに希望はあるのか。結婚もできず、給料もあがらず、それに耐えられるのか」ロスジェネ世代の高齢化は、この国に大きな重荷を背負わせる。
 国も大きな負担 団塊の世代が75歳以上になる2025年問題はよく知られているが、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、65歳以上人口が最も多くなるのは42年、75歳以上人口のピークは54年だ。ロスジェネが超高齢社会の主役となる時期と重なる。非正規化が進み無業者が増えたロスジェネ世代について、老後に生活保護を利用する人が増えることによる追加費用は17.7兆~19.3兆円に達する。そんな推計を08年にNIRA総合研究開発機構がはじき出している。
「高齢者の数を減らさなければ、この国の未来はありません」。昨年秋、75歳以上の貧しい高齢者に国家が安楽死を勧める10年後の日本を描いた短編映画が公開された。タイトルは「PLAN75」。オムニバス映画「十年 Ten Years Japan」の第1編だ。是枝裕和監督が総合監修した。劇中では、テレビCMが「あなたの決断を全力でサポートします」「痛みや苦しみは一切ありません」と穏やかに安楽死を勧める。「PLAN75」を撮ったのはロスジェネ世代の早川千絵監督(42)である。きっかけは、障害者施設の入所者19人が殺害された「やまゆり園事件」で感じた、命を選別するような社会の空気への憤りだった。「このまま進んだら社会はどうなるのか、映画で提示したかった」と早川さんは言う。「不安定な非正規雇用で働いてきた人が年金を減らされ、自分でなんとかしろと放り出されれたら、この映画にようなことはありうると思います。そうならない未来への希望も持っていますが」ロスジェネ世代が高齢化する未来は静かに、刻一刻と、近づいている。(多田敏男、編集委員・清川卓史)

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