6日 仰げば尊し【1】

朝日新聞2017年5月3日7面:14歳はホステスだった 年商10億円社長への道のり 4月の中ごろ、東京・荒川の土手に、久田真紀子(42)は立った。中学時代を、このあたりで過ごした。「消したい過去が、あふれているんだ」久田は、東京都心にある「ヴェス」という会社の社長である。28歳で起業し、従業員150人、年商10億円にまでなった。ソフトウェアの第三者検証 これが業務だ。だれもがパソコンやスマートフォンでソフトやアプリを使う。ITが暮らしに欠かせない時代に、それらが使いにくく、誤作動しやすかったら大変だ。だから、世に出る前に中立的な立場で、とことんチェックする。
そんな業界への参入企業は100を超える。久田の会社は、カーナビの地図、子ども向け教育教材などを検証してベスト10内。女性従業員を中心としたきめ細かで丁寧な仕事が、会社の売りだ。
さて、荒川の土手といえば「3年B組金八先生」のロケ地である。そして、久田は、教師と生徒がぶつかり合うドラマの世界を現実にしてしまった。土手を下り、近所を巡ることになった。このあたりは足立区、地名に「千住」がつく。千住警察署が見えた。「ここの少年係に、お世話になった。大人になって、当時の担当警察官の異動先にあいさつに行った。それが人の道だろ?」
とくに中学1年、13歳は悪さの日々。「先生たちにも迷惑をかけた。でも、あのころは恩を感じなかったんだよなあ」
北海道に生まれた。三つ年上の姉と、双子の妹がいた。6歳のとき親が離婚、久田たち姉妹は母のふるさと、千住へ。今にも倒れそうな古い木造の家に住んだ。障子は破れ、ネズミが走る。母は働かず、生活保護費はパチンコ代に消えた。
小学生時代。久田は低学年生のころ、貧乏、貧乏、といじめられた。石を投げられた。身を守るため、いじめっ子になっていった。中学入学前にあった学校見学会で、別の小学校の「千夏」と出会う。見るからに悪そうで意気投合。もう1人加わり、少女3人でチームをつくった。
足立区第十六中学 そこは「足立区の学習院」と呼ばれる、おだやかな校風だった。だが、久田たちの入学で、教師たちにとっての地獄が始まった。久田たちが教室で暴れ、学校の外でも悪さばかりするのもだから。さらに、チームのひとりは、14歳で子どもを産んだ。まさに「実録・金八先生」である。
1989年。中学2年で、久田は母に家を出された。大人に見える化粧をして19歳と偽り、銀座のクラブホステスになった。事実は14歳、の久田にとって客たちの会話は難しすぎた。分からないので黙ってニコニコ。それが「おしとやかだ」と評判に。世はバブル。たくさんプレゼントをもらった。
学校にはあまり行かなかった。たまに登校すると、教師に「寝てろ」と言われ、寝ていた。上級生の卒業式が迫る。同級生は、先輩の制服のボタンがほしい、と騒いでいる。久田は鼻で笑った。<私は、男たちからプレゼント、たくさんもらってるぞ>
久田、中3、卒業する番になる。卒業式で、3年生の歌が響く。仰げば尊し わが師の恩 教えの庭にも はや幾年 久田は式に出なかった。PTAが参加を拒否したのだ。だから、久田は「仰げば尊し」を知らない。校長室で卒業証書を渡された。そして、教師や学校のことなど忘却のかなたへ。銀座の仕事にのめりこみ、落ちていった。
元不良少女が、どん底から反転、起業し、教師への恩返しを誓う。そんな物語を4回でお届けします。 =敬称略 (編集委員・中島隆)

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