6月6日 そよかぜ ◇東京

朝日新聞2019年6月1日9面:日韓対立越える強い絆 5月24日夕刻の東京・市谷。ビルの6階に準備された会場で笑みをたたえて来場者を迎える女性がいた。JR新大久保駅で2001年、線路に落ちた人を助けようとして電車にはねられた韓国人留学生、李秀賢(イスヒョン)さん(当時26)の母、辛潤賛さん(69)だ。来場者は、辛さんの夫、李盛大さんの死を悼んだ。今年3月、病気のため79歳で亡くなった。会場正面の祭壇に飾られた生花の中に、穏やかな表情の遺影があった。
事故後に寄せられた弔慰金は日本で学ぶアジアの留学生を支えている。毎年1月の李秀賢さんの命日と、10月の奨学金授与式には必ず、夫婦そろって来日していた。辛さんは「口数の少ない夫でした。私がいつも代弁者だった」と語る。この日、出席した奨学会関係者は、02年から昨年まで897人に奨学金が送られたと報告した。16年の大みそか、夫婦が住む釜山の日本総領事館前に、慰安婦を象徴する少女像が設置された。李盛大さんは自宅でテレビのニュースを黙って見つめていた。辛さんが傍らで「解決方法がないものか。心が痛む」とつぶやくと、李盛大さんもうなずいたという。当時、ふたりが気遣った人物の一人が森本康敬釜山総領事(当時)だ。日韓関係が最悪といわれるなかでの今年3月、辛さんはそんな思いを堂々と韓国メディアに明かした。24日、会場を訪れた森本さんが辛さんの手を取ってお悔みを伝えると、辛さんは耐えきれず涙をこぼした。逆に、最もつらいがずの辛さんが、李秀賢さんらを思いやって涙をこぼす来場者の女性の手を取り、笑顔で励ます場面もあった。辛さんは「こんなにたくさんの人に来ていただいてうれしい限りです」と語った。
温かい心の通い合いを目の当たりにし、会場の日韓当局者も居住まいを正した。鈴木憲和外政務官は「感謝の気持ちをもって頑張る」と語り、金敬翰駐日韓国公使も「こんなに強い絆で結ばれた人々の思いを考えれば、日韓関係が悪くなるはずがない」と述べた。ただ、現実は厳しい。奨学会を手伝ってきた谷野作太郎元内閣外政審議室長は「(李盛大さんや李秀賢さんらの)何をやっているんだという叱責の声が聞こえてきそうだ」と語った。(編集委員・牧野愛博)

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