5月28日 令和に寄せて メディアアーティスト 落合陽一さんに聞く

朝日新聞2019年5月24日28面:おちあお・よういち1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。ピクシーダストテクノロジーズCEOなどを努める。著書に『魔法の世紀』『デジタルネイチャー』など。 どんどん近づくデジタルと身体 言葉介さずアートで深堀り ワープロは使われていたものの、携帯電話すら普及していなかった時代から、誰もがスマホを持ち、インターネットに接続する時代へ。平成の30年で最も変わったものは、デジタル環境だろう。その動きは、新しい時代にどうなっていくのか。メディアアーティストで筑波大准教授の落合陽一さん(31)に聞いた。「令和『令』には『良い』という意味があると言われていますが、僕は『命令』の『令』であり、コンピューターソフトのプログラムの意味だと捉えています。ハードウエア化した産業構造をソフトウエアの方に変えていかなければならない時代に、非常にいい元号だと受け取りました」この読み解きの背景には、新時代の日本の課題はソフト、コンテンツの構築だという認識がある。「いま我々を囲むウェブメディアやテクノロジーの環境はアップルをはじめほぼ全ての製品が諸外国によって作られています。(次世代通信の)5Gの技術も華偽技術(ファーウェイ)とクアルコムが強い。グーグルにフェイスブック、ツイッターやインスタグラムも海外のものです」「そうしたプラットフォームに接続することで利用料をとる課金モデルが強くなったとき、どうやってソフトやコンテンツの力を上げていくのかが課題です」
こうした時代を生み出したのは、インターネット環境が世界を覆い、あらゆるモノがそこにつながる状況だろう。そのなかで、落合さんがメディアアーティストとして唱える概念が「デジタルネイチャー」だ。「例えば、霧の中を車で走っているとき、現代の我々はデジタルデータであるカーナビを正しい地形図として信用します。今読んだ漫画は、紙の本だったか電子書籍だったかも意識しない。検索するときに使うグーグルの機能は、ほとんど補助脳のようになっている。デジタルとネイチャーは対立するものではなく、どんどん近づき、一つの枠組みになって、世界認識や自然観も拡張されていると考えています」
「5Gになれば、ハイビジョンや4K、立体情報に必要な膨大なデータをすぐに遅れるようになって、ますます生身で感じるものに近くなる。周囲の現象を3次元でスキャンして送信すれば、言葉に置き換える必要ななくなり、現象自体を伝えることができる」今は、ネットに接続する画面や、バーチャルリアルティー用のゴーグルによって実現されているが、20年もすれば、空中にいきなり3次元で、かつ触れるような映像が浮かぶようになるかもしれない、という。
そのとき、アートの役割とは何だろうか。「工学は具体的な課題を解決しようとする。批評家はモノを作らない。でも、アートは個人的な問題にフォーカスすることで文化的い深堀りすることもできる。考えるだけじゃなくて手を動かして感じる方が、考えが置くまでいく」落合さんがよく引用する言葉に、「パソコンの父」と呼ばれる米国の科学者アラン・ケイの「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」という言葉がある。例えば、落合さん自身が生み出した作品の一つに、「レビトロープ」がある。浮遊する6個の金属球が連なりながらゆっくりと円環上を周遊してゆく。磁気浮揚の技術を使った、重いもんが軽く見える「新しい質量」の提示で、これも現代の「自然」をアートで示した一例といえるだろう。さらに、この「浮遊」には古典的な「幽玄」への志向があるという。この作品をはじめ、先端技術を使いながらも、古典美や歴史への意識を潜ませている。
コンテンツの時代、日本も「クールジャパン」などと称して文化を対外的に打ち出しているが、この歴史への意識の点で問題があると見る。「日本の現代のアニメやゲームが、歌舞伎に接続しうる文化だと伝わっているでしょうか。海外には日本のアニメのファンがたくさんいますが、『ドラゴンボール』の必殺技と、歌舞伎の見得の動作や浮世絵の所作が、共通の体系のものとして理解されていない」 逆に、パリのノートルダム大聖堂の火災後に、巨大ブランド企業などが、すぐに修復のために巨額の寄付をすると表明したのは、「大聖堂が持つ歴史ある文化体系に価値を見いだしているからだ」と指摘する。言葉を介さずとも「文化の価値」を伝えうる可能性があるテクノロジーやメディアアートの重要性が高まっていくのかしれない。
格差社会や国の巨額債務、少子高齢化など、平成の30年は課題が顕在化したものの、解決策を見いだせないままだった。落合さんは、日本社会を「人種や宗教の多様性が低いためか、今でも職業などでラベル付けをしようとする」と指摘。その中にあって、「僕はアートも工学も教育も企業経営もやり、ヌエのような存在に見られていると思う。でもこれからは多様なキャリアを積んだ人が出てくる」と話す。少子高齢化については、「ロボティクスなどのテクノロジーによる自動化や省力化によって支えられる部分が大きいと思う」と話す。産業をどうやってソフト中心に転換して価値を出してゆくかが課題だとも指摘した。
「何もしなくても明日の方が良くなる社会は理想的ですが、そうでなくても、やるべき課題が明確な分、それが一つずつ解決されることで前に進んでいる感じが出ると思う。テクノロジーを使ってマイナスのものを徐々にプラスに変えてゆくのは、ある種の『希望』です。そのための選択肢を阻害しないような社会であってほしいと思います」(聞き手 編集委員・大西若人)

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