5月28日 もう限界 保育現場のいま

東京新聞5月27日21面:燃え尽きる若手   激務と重責 相次ぐ離職
「お母さん、早く電話に出て…」
名古屋市内の私立保育園に勤務する保育士の女性(24)は受話器を握り締めた。担当する一歳児クラスの女の子が高い熱を出していた。熱性けいれんを起こしたことがあり、38度を超えたら座薬を使ってと母親に言われていた。ただ使用には事前の了解が必要だった。熱でつらそうな女の子の表情を見ると、動悸が速まった。

2016/ 5/27 14:46

2016/ 5/27 14:46

電話が通じたのは一時間後。座薬を投与すると女の子の熱は下がった。全身から力が抜けた。
一歳児クラスは、歩き始めた子から、すたすたと歩き回る子、単語がまだ出ない子など、成長の度合いはばらばら。この園では、国の基準より手厚い保育士3人で子ども11人を見ているが、それでもふとした瞬間に子どもが軽いけがをしてしまう。
ある日、女性が泣く子をあやしていたら、遊んでいた子が激しい泣き声を上げた。他の子に腕をかまれ、腕には歯型が付いていた。
一歳児では、おもちゃをとられたり、思い通りにならなかったりすると、かみつくことが珍しくない。お迎えの時に、かみつかれた子の親に謝罪したが「かみつく子とうちの子を離してほしい」と要求された。
同じ部屋で保育しており、無理な相談だった。
「保育士の責任です。きちんと見守ります」と頭を下げたものの「これ以上どうしたらいいの」との思いが渦巻いた。
子どもを保育する8時間を終え、別の保育士と代わっても仕事は続く。担当園児の現状と目標を記入する指導計画を、毎週と毎月新たに作成するほか、秋には運動会やバザーの準備。帰宅が10時、11時になることも珍しくない。休みの日は体を休めるだけで過ぎていく。
幼稚園に勤める短大時代の同級生は、自分より給与が高く、連休には海外旅行を楽しんでいる。「私の人生って何なんだろう。もう限界。辞めようと思う」
名古屋市の別の保育園に勤める女性(37)は「勤めて5年、6年で辞めていく保育士が少なくない」とため息をつく。希望に燃えて保育士になったものの、あまりの忙しさで燃え尽きていくのだ。
この園では、1,2年目の保育士がペアを組んで一歳児クラスを担当する。昼寝の時間には、息をちゃんとしているかを数分おきに全員確認しつつ、保護者に渡す連絡帳を記入する。
「私も数年の経験がある先輩と組んで教えてもらってきたが、今は中堅が少ない分、若手の責任が増しているんです」
厚生労働省が2013年、保育士として働いていない有資格者にその理由を複数回答で聞いたところ、「賃金の安さ」「責任の重さ・事故への不安」「休みが少ない・とりにくい」がいずれも4割前後に達した。
待機児童の深刻化から、政府は「一億総活躍プラン」で保育士の給与引き上げを発表したものの、保育士の激務がすぐ改善される見込みはない。「現状を知ってもらわないと、すぐ忘れられてしまう」という危機感から、名古屋市内の保育士らは今月1日のメーデーで、「保育士続けたいの私だ」などと声を上げた。
保育士の勤務経験がある横井喜彦・中京学院大教授(保育学)は「保育現場は、事務作業が増加しているほか、保育だけでなく保護者も支援することが必要になり、悲鳴を上げている」と指摘。保育士の責任は増しているのに比べて、「国における保育の位置付けが低く、予算が少なすぎる。人の心や身体の土台をつくる重要な仕事と早急に評価すべきだ」と話す。(寺本康弘)

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