5月27日 旅芝居を歩く「4」

朝日新聞2019年5月23日夕刊1面:満員御礼! 熱い商店街 「西高東底」は気圧配置だけの話ではない。旅芝居の一座が日々出演している劇場も、圧倒的に西日本に集中している。特に多いのが大阪だ。「風雪!旅役者水滸伝」など旅芝居に関する数々のルポルタージュを残してきたライター橋本正樹(72)によると、全国55館のうち3分の1ほどの18館が大阪府内に集まっている。「役者の体温が伝わってくるような近親感が旅芝居の魅力。しかも大阪人はサービス精神が旺盛で、本音主義といわれる。気楽に楽しめるのも人気の理由です」と橋本。入場料も1500~1700円の劇場が多いという。
ここ数年は、勤め帰りの若い女性らも集まりやすいようにと、梅田などターミナル駅近くの一等地に続々オープン。照明や音響も最新鋭の設備を導入している。一方東京は、1965年ごろは12館あったというが現在は都内に浅草、十条、立川と3館しかない。「旅芝居は古くさい」と言う人は大阪を訪ねたらいい。各劇場を訪ねると、どこもほぼ満席だ。しかも、花も実もある名役者が勢ぞろい。おばちゃんたちが前列に陣取り、ペンライトを振って熱い声援を送っている。
大阪の隣も熱い。兵庫県には「名門」といわれる「新開地劇場」(神戸市)など4館ある。今月7日、「ここは珍しいですよ」と橋本の案内で訪ねたのは同県明石市。名所「魚の棚商店街」近くにある「明石ほんまち三百館」だ。大正時代、港近くに作られた芝居小屋「三百亭」が前身。昭和になって映画館となったが、2014年に閉館。築70年近い木造建物を、地元商店街の振興組合が劇場主から借り、耐震化工事を進めるとともに内外装も一新。15年12月1日にオープンし、以後、運営も続けている。外観は、しっくいの白壁と黒い焼杉板のコントラス。壁やステンドグラスには「千鳥」が舞う絵が施されている。「淡路島通ふ千鳥の鳴く声に幾夜ねざめぬ須磨の関守」という百人一首をヒントにしたという。役者が出入りする「花道」も長く、客席は160席。堂々たる劇場だ。
「旅芝居を商店街の活性化につなげよう」と提案したのは、地元で幕末から続くせんべい店を経営する6代目・原田貞(66)。市内の商店街が連合で催す顧客感謝イベントを担当。マンネリ化を避けようと大阪の一座を招待したところ、ホールは超満員に。「女性を中心に旅芝居には熱烈なファンがいることが分かった」今回私が訪ねたのは7日。10連休明けの平日にもかかわらず、人が結構入っていた。出演は「南條隆とスーパー兄弟」。初代・南條隆が1935年に熊本で旗揚げした老舗劇団だ。初代からの教えは「舞台では美しい夢を見せる」。たしかに、いつの時代も変わらないものがある。義理と人情、そして勧善微悪だろう。先行き不透明な現代だからこそ、旅芝居に観客が求めるものは大きいかもしれない。 =敬称略 (小泉信一)

 

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