5月23日 日曜に想う 編集委員 大野博人

朝日新聞2019年5月19日3面:想像の移民におびえるよりも 移民はやっぱり移民と呼んだ方がいいかもしれない。衆議院立憲会派の中川正春議員(68)は最近そう考える。7年前の民主党政権時代、内閣府の特命大臣として共生社会を担当した。就任直後に「移民基本法を作りたい」と発言したら抗議が殺到した。「移民を容認するのはけしからん」移民という言葉を使うと反発が強くなるようだった。その後、外国人材などといった言葉に言い換えてきた。中川議員に限らない。政界はこの言葉の使用にずっと及び腰だった。「そうやって真っ向から問題を考えるのを避けてきたのでは」と振り返る。
「移民でないと言いながら技能実習生や日系定住外国人などは実質的に移民として受け入れる二枚舌をやってきた。これではなかなか本物の製作はできない」移民という言葉はやっかい者のイメージをまといがつだが、問題の多くは仕組みの方にあると言う。「職業選択の自由がなく、使用者にいじめられても低賃金で働き続けなければならない。そんな環境から逃げると犯罪だとなる」議員は三重の高校から米国の大学に進んだ。不法移民家庭の出身だった親友は名門大学を出て医師となった。そんな例をいくつも目の当たりにした。「人間の才能は環境によって花開く。日本もそんな人たちを活力にしていくべきです」今は、日本で暮らす外国人にとってまず必要なのは言葉の習慣と考え、その法整備に与野党の仲間と取り組んでいます。
1998年7月、サッカーのワールドカップ(W杯)で開催国フランスが優勝した。その直後、移民規制で厳しい姿勢をとってきた保守の元内相、シャルル・パスクワ氏がルモンド紙でのインタビューで思いもよらない発言をした。この際、7万人に及ぶ不法滞在の移民を一気に合法化しようー。優勝に仏社会はわき立ち、あまり例のない一体感に侵っていた。それをもたらしたチームにはジダンをはじめ移民系の名選手がそろっていた。「移民統合が9割方成功だったことは、W杯でだれの目にも明らか。フランスが強くなった今こそ、寛大になれる。それを態度で示すべきだ」多数の不法移民を国外に退去させるのは実際には無理。だが、放置すれば「彼らだって生きていかなければならない。搾取する企業のえじきになるかもしれないし、犯罪に走る者も出るかもしれない」。ならば世論が寛大な今が「不法」を「合法」にひっくり返すチャンスというわけだ。「左翼に宗旨替えしたと思う人がいるかもしれないが、私はただ現実主義者であるだけだ」
当時は野党だった彼の考えは政策には反映されなかったが、保守政治家の移民という課題への姿勢が想像ではなく現実に根ざしていたことを示す言葉だった。人々が不安を抱くのは、しばしば現実の中の外国人より想像の外国人だ。フランスで移民排斥を掲げる右翼政党への支持は、移民系が多いパリでは低い。ドイツでは旧東独のドレスデンなどが移民や難民排斥の数は少ない。日々、同じ街に暮らしていれば誤解が生じても話せば理解は進む。だが、これからやってくる外国人は不安をかき立てやすい。トラブルメーカー、雇用を奪う者、文化の破壊者・・。政治家の仕事はそこにつけ込むことではない。現実的解決への道筋をつけることだ。フランスの人口統計学者、フランソワ・エランは著書「移民とともにー計測・討論・行動するための人口統計学」の日本語版(林昌宏訳)序文で、日本での「移民の増加は国の文化的な均質性にとって有害」という考え方に、これまでも日本文化は「明治時代や進駐軍の支配という衝撃を乗り越えてきた」と反論する。「移民の人口に占める割合が2%でなく10%になったからといって脅かされるようなことがあるのだろうか」想像の移民におびえるよりも、現実の移民と向き合う。そのためにも、移民は移民と呼んだ方がいいいと思う。

 

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