5月20日 オトナになった女子たちへ 益田ミリ

朝日新聞2019年5月17日25面:めちゃくちゃ便利なもの 失敗すると腹が立つ。あの段階でああしていればよかったんだ! と後悔しても時は戻せない。失敗とはそういうものだ。わかっている。うまく立ち回れなかった自分自身に腹を立てているのである。されど、悪いことばかりではじゃないのだった。次に似たような状況になったときの対処法を決めることができる。決めるのは重要だ。決めなければ実行に移せない。わたしは決めた。
次回からああいう場合は、テキトーというめちゃくちゃ便利なものを忘れていたことに気づいたのである。決めると安心した。わたしは未来のわたしを信用することにし、すると気持ちも少し軽くなった。電車に乗って買い物に出よう! ちょうどファンデーションが切れかけているし。「いらっしゃいませ」化粧品売り場の店員さんに鏡の前へと案内された。眼鏡をはずして見る自分の顔。ぼやけている。だからシミひとつない。たまごみたいにツルツルだ。そのたまご肌に2種類のファンデーションが塗られた。右の顔がツヤあり、左の顔がマットな仕上がり。「お客さま、どちらがお好みですか?」 見えていないのでわからない。眼鏡をかけて確かめる。マットタイプのほうがカバー力があるようだ。カバーしたいのでそちらに決める。右のお顔も同じので塗り直しておきますね、と店員さんは言ってくれた。わたしは断った。「いーんです、いーんですこのままで」テキトーだ。今日はもうテキトーの練習だ。日が暮れかけていた。ミモザ色の夕焼け。きれいだ。きれいなものを見たいと思う自分の心が好きだ。夕焼けも、街灯が灯り始める前の道路も。見ているときは自分の失敗など忘れている。きれいなものに勝てるものはこの世界にないものかもしれない。買い物も済んだし、マッサージでもして帰るとするか。マッサージ店に飛び込んで受け付けする。「ここにお名前をお願いします」と渡されたペンで、わたしはむろん、テキトーな名前を書いた。(イラストレーター)

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