5月2日 「夜」の女性 支える【上】

朝日新聞5月2日18面:JR池袋駅北口から徒歩数分。とあるマンションの2階。表札すら出ていない玄関ドアを入ると、目の前の扉に「月1回 性病検査の徹底」と、張り紙があった。手前の部屋には、スマートフォンを手にした女性がいる。ホテルなどで客と会う「デリヘル」と呼ばれる派遣型(無店舗型)風俗店の待機部屋だ。
3月23日午後。奥の小部屋で弁護士の徳田玲亜さん(29)とソーシャルワーカーの及川博文さん(27)が、女性の話を聞いていた。女性は40歳前後という。
「バッシとぶたれたことがるんです」。相談開始から20分ほど。女性はハンカチで目頭を押えながら、抱えている悩みを小声で語り始めた。同居する年上男性から暴力を振るわれるという。女性の月収は5万~6万円程度で、一人暮らしは厳しい。及川さんは「シェルター」を、パソコンで調べた。女性のような環境の人が、一時避難できる施設だ。
風テラスー。風俗店待機部屋で定期的に開かれる無料の生活・法律相談の名前だ。名前には「司法と福祉の光で風俗の暗躍を照らす」という願いが込められている。女性が所属する風俗店グループでは30代後半から70代まで、約200人が働く。徳田さんや及川さんのような専門家が、働く女性たちの悩みやトラブルの相談にのっている。
9階の部屋では、57歳の女性が相談していた。都内でマンションに住んでいるが、管理費の支払いが滞りがちだ。以前、区の生活相談に行ったが、仕事内容を細かく詮索された。さらに、疎遠な実弟を頼りなさいと言われ、「行政は頼りづらい」。
この日は、月の支出がいくらなのか、詳しく話をした。女性は全容を把握できていなかったが、相談の結果、収入は多くても10万円しかないのに、支出は毎月10万円程度。これでは管理費が出ない。相談にのった浦崎寛泰弁護士(34)は同居する息子にもっと生活費を負担してもらうことなどを提案した。女性は「言われたことを少しずつ行動に移して、きちんとした生活を送れるようになりたい」と話した。
風テラスは、一般社団法人「ホワイトハンズ」の代表を務める坂爪真吾さん(34)が呼びかけ人だ。 東大・上野千鶴子ゼミ在籍時から風俗店を研究していた坂爪さん。卒業後の2008年、重度の男性身体障碍者に性的な支援をするホワイトハンズを立ち上げた。
当初は色眼鏡で見られたが、14年には「社会貢献支援財団」(安倍昭恵会長)から社会貢献者として表彰された。
坂爪さんは性や不倫に関する社会学的な著書を意欲的に出してきた。風テラスの必要性を感じたのは、昨年初めてのこと。新著のために複数の風俗店を取材したことがきっかけだ。
風俗で働いている女性は、借金や暴力などに苦しむ人も多い。精神疾患や軽度の知的障害を抱えている場合もある。「稼げる」とされる30代を過ぎて収入が減り、生活が苦しいケースも珍しくない。
しかし、仕事の特殊さゆえ、行政や地域社会の支援は届きにくい。「昼の仕事に転職すれば」という声も聞くが、容易ではない。追い込まれている女性の多くは、「学歴や職歴が十分でなく、風俗以外に選択肢が持てない」(徳田弁護士)からだ。
「風俗の仕事を否定しない。彼女たちの選択を尊重しつつ、生活を支えていく」と坂爪さんは言う。昨年10月から月1回程度、風テラスを開催してきた。
女性たちが在籍する風俗店グループを経営する斉藤明典さん(47)は、過去に個人で在籍女性の債務整理などを手伝ってきた。出勤してもらうには生活基盤が整っていないと難しいからだ。今は、風テラスに活動資金を出している。
坂爪さんには、別の風俗店グループからの接触があるという。「司法、福祉、専門家からのサポートが必要な層がある。レッテルを貼ってたたく前に、彼女たちの現状と支援の必要性を知って欲しい」と語る。(高野真吾)
多くの困難や悩みを抱える風俗店で働く女性たち。「夜の世界」で働く女性は、一説には30万人ほどいるとされる。彼女たちを支える新たな動きとその意義を、現場報告と識者インタビューで2回に分けて伝える。

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

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