5月13日 寂聴 残された日々

朝日新聞5月13日31面:若草プロジェクト立ち上げ 今の日本の若者の中には、自分の考えをはっきり心にうち立て、大人たちの支配する納得のいかない世間の動きや、権力者たちの言動に、敢然と立ち向かう頼もしい人々もいる。しかし一方では、人には言えない深い悩みに、SOSをかかえこみ、日々濃くなる心の闇に孤独に呻吟(しんぎん)している若者、特に少女や若い女性たちが少なくない。誰か彼女たちに手を差しのべるべきではないか。
そんな話を真剣に話してくれたのは、日頃、私が心から敬愛している弁護士大谷恭子さんだった。大谷さんは永山則夫・元死刑囚や重信房子受刑囚の弁護をした人だ。やがて、大谷さんと同じ考えを持つ同志があらわれた。あのひどい冤罪事件で苦労された村木厚子さんとその御主人木村太郎さんだった。3人は苦悩している彼女たちのよりどころになる場所をたて、着々とそれを実現しようとされ、私のも誘いの声をかけてくれた。
今月15日には、もはや94歳になる私は、とみに体力も知力も弱くなってきて、明らかに老衰の一路をたどっているが、生涯の最後に、法師としての立場からも、このプロジェクトに参加して、苦しんでいる人たちのなぐさめになる役をしよう、いや、するべきだと、心が定まってきた。私は即、大谷さんたちの仲間にいれてもらった。実行力のある大谷さんのもとに、たちまち支援者だちが集まり、しっかりした会が生まれた。
会の名前は「若草プロジェクト」と決まり、私と村木さんが、外部に対して、会の代表呼びかけ人となった。
まず寂聴で、様々な分野で活動する支援者たちの第1回研修会をすることになった。寂聴の法堂は、つめて座れば200人くらいは入れるが、研修者たちはノートもとるから、机と椅子がいる。どうにかその用意も出来、当日集まったのは厳選された60人。それぞれ仕事を持つ、インテリの女性たちであった。
司会者が選ばれ、会はてきぱきと小気味よく進んでいった。どしどし立ち上がって、しっかりした声で理路整然と意見を述べる彼女たちの魅力と頭のよさと弁舌の爽やかさに私は仰天してしまった。
彼女たちは自分だけの幸福を望んでなどいない。不幸な力弱い同性の孤独な悩みを自分のこととして受け取り、彼女たちの悩みの闇に光となろうとしているのだ。
日本はまだ大丈夫だと、私は涙が出そうにうれしくなっていた。◇作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんによるエッセーです。
◇作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんによるエッセーです。原則、毎月第2金曜日に掲載します。

2016/ 4/ 8 12:12

2016/ 4/ 8 12:12

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