4日 ザ・コラム 秋山訓子

朝日新聞2017年3月2日16面:安倍一強 名脇役のいない嘘っぽさ 脇役を演ずることの多い俳優が集まったテレビドラマが話題を集めている。そのキャストは男性ばかりだが、女性にもそうゆう人はある。松岡依都美さん(37)。舞台出身、「凶悪」(2013年)でオーディションを受け映画に初めて出て以降、名だたる監督から出演依頼がひきもきらない。
ホステスや夫の素行調査を頼む女。はすっぱな役が多い。ほんの数場面の出演でも不思議な存在感を残し、映画全体を味わい深くしている。ずっと気になっていたので、会いに行ってみた。スクリーンで見るより、はるかにかわいらしい人だった。
どんな気持ちで脇役を演じていますか?「あんまり意識していないんですけど」と言いながら、一つ一つ言葉を探すように話してくれた。
「こういうことてある、こういう人っているよね、この人本当にそうじゃないかと思ってもらえるといいなと思っています」だから現実感が出る。彼女は是枝裕和監督の次回作でメインキャストに名を連ねている。監督は起用の理由を「(前作で)出番は少なかったですが、その生な人間味が素晴らしかったのでまたお声がけしました」と語っている。観客の目線に近い役柄を、リアルに表現できるのだと。
なぜ私が脇役に思いを巡らせていたかといえば、最近の自民党に名脇役がいなくなったと感じていたからだ。名脇役とは、主役に寄り添うだけではなく、ピリッとスパイスを利かせる人。かつての自民党には(という言い方は好きではないのだが)、一言居士やらご意見番やら暴れん坊やらがいて、それが幅広さと活力を生み出していた(ついでにいえば、それで最後にまとまるのが強さだった)。
小選挙区制度になったから・・・という問題にはここで踏み込まない。昨年末のカジノ法案衆院採決を思い出す。自民党議員と話すと「地元で評判悪いんだよね」とか「あの進め方は強引だ」という人が結構いた。だが採決時に退席し、法案に慎重であるべきだと明言したのは中谷元・前防衛相だけ。仲谷氏に聞いた。
「4年前にアルコール依存症問題議連を結成し、アルコール健康障害対策基本法を作ったんです。依存症といえばギャンブルもそうですよね。対策もない。2.3年前に党内手続きをしたというけれど、今回説明もない。民主主義はプロセスが大事でしょう? 私は加藤紘一さんから、大平正芳さんの教えとして政治は小魚を煮るごとくていねいにやりなさいと教わりました」
採決の後、複数の議員から「うらやましいね」と言われたという。中谷氏は選挙に抜群に強く、閣僚も経験したばかりだから、というところだろうか。今のところ党からおとがめは、ない。
それから私は武部勤元自民党幹事長に会いに行った。00年に「加藤の乱」があった時のこと。加藤派と山崎派は親分が内閣不信案に賛成しようとしていた。執行部の激しい切り崩しにあい、加藤派からはぼろぼろと議員がこぼれていった。(中谷氏は残った)。山崎派はどうする。ぎりぎりの局面で武部氏が一喝した。
「どんなことがあっても親分についていこうじゃないか。それが派閥だろう」武部氏に聞いた。執行部が怖くなかったんですか?
「全然。一度はたたかわなくちゃ。自民党の歴史を見てごらんなさいよ。(小派閥を率いた)三木武夫だって首相になっている。パワーバランスが大事なんですよ。それが自民党の文化なんだ。根底に相互の信頼感があったからね」じゃあ、今は一見まとまっているようですが、信頼感は失われた? 「残念ながら弱くなったじゃないか」武部氏がその後、小泉純一郎首相に幹事長に抜擢され、「偉大なるイエスマン」となったのはご存じのとおりだ。
脇役がいない世界は、カラフルでなく面白くなく、嘘っぽい。政治は世の中の鏡だ。さまざまな立場や考えを代表しあれこれ議論を交わしてこそ納得できる結果に近づいていく。意見が違うのは当たり前なのだから。今はそこからどんどん遠ざかっているようにみえる。

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