30日 ピケティ コラム

朝日新聞2017年4月26日15面:仏の平等神話 逆進的な税制から脱却を フランスは根っからの平等な国であり、世界各国で進む各差の急拡大を、奇跡的にも免れている。なおしぶとく残るこの伝説が本当だとすれば、いま行われている大統領選で、グローバリゼーションと欧州連合(EU)に対する強い不安がなぜこれほどまでに噴出しているのか、という疑問が浮かぶ。「フランスは平等が実現された例外(的な国)だ」という国家的な神話は、ひどく誇張されている。そして、支配層はフランスの欺瞞を正当化するために、この神話をよく利用してきた。
何もいまに始まった話ではない。フランスで累進的な所得税が導入されたのは1914年で、最も遅い国だ。戦費調達のために不可欠だったからである。当時、ドイツや英国、スウェーデン、米国、日本ではすでに累進的所得税は導入されていて、国によっては何十年も前から学校や公共サービスの資金源になっていた。つまり、フランスでは1914年になるまで、第三共和制の政財界のエリートたちはこうした改革を頑固なまでに拒み続けてきた。理由はこうだ。フランスは革命の恩恵ですでに平等な国なっており、わざわざ財産を奪うような税金を課す必要は一切ない。それがふさわしいのは、貴族制や独裁的である周辺社会だ、と。実際、相続についての記録をみると、財産と収入の極端な集中は、フランスも欧州の他の社会と変わらなかったことははっきりしている。しかも米国より、その集中度合いは大きかった。
今日、大きな格差を抱えるフランスの教育システムにも、かつてと同じような欺瞞が見いだせる。共和国の良心に恥じることなく、公的資金は(エリート養成学校など)厳しい選抜がなされてる学校の学生に重点的あてられる。投入される資金は一般大学の学生と比べて3倍に上る。社会的に恵まれない若者の多くは一般の大学に集まっているのに、エリートを重視して(予算を)引き締める傾向にあり、一般大学の学生1人あたりの公的支出は、2007年から17年の間に10%下落した。私たちは「学識基盤(を整備する)社会」「イノベーション」などについて頻繁に語っているにもかかわらずだ。さらに(大統領選の候補者の)いくつかの政策集を見ると、今後5年間でこの傾向は悪化しそうだ。フランスは、私立小中学校が全面的に税収で運営されている国だが、私立学校は自分の学校にふさわしい学生を選抜する権利がある。その結果、社会的分断が容認しがたいレベルまで進んでいるが、残念ながらこの現状に歯止めをかけるものはない。
お金の不平等については、ベルトラン・ガルバンティ、ジョナタン・グピーユルブレと私による共同研究で、フランスの平等神話の限界が証明されている。国民所得の下位50%が文字どうり崩壊した米国ほどでゃないが、フランスでも所得の不平等の拡大自体は、確かに進んできている。1983年かえ2015年までで、上位1%の最富裕層の平均所得(物価上昇分も含む)は100%増加した。上位0.1%に限ると、150%の増加になる。これに対し、その他の層の国民所得の上昇は、25%に届くかという程度だ(1年あたりでは、上昇率は1%に届かない)。上位1%の最富裕層だけで国全体の成長の21%を得ているのに対し、成長の20%を下位50%がわけあっている。この数字は、(フランスの経済成長期と呼ばれる1945~75年の)「栄光の30年」との断絶を示している。50~83年は、国民の大多数は所得が年4%近く増えていた。いまとは逆で、富裕層の上昇率は1%ほどにおさまっていた。そしてこの「栄光の30年」は、すべての人にとって終わったわけではないという事実も、見逃せない。雑誌でしばしば報じられる企業の経営幹部たちの報酬や資産ランキングをみれば、わかるだろう。
私たちの研究では、高額の資産がかなり大きく増えていることが判明した。1千万ユーロ以上の試算になると、90%は金融証券が占める。1980~90年以降、こうした高額資産が増えていくスピードは、GDP(国内総生産)の成長速度をはるかに上回るだけでなく、資産の平均的な増加よりもずっと速いスピードを見せている。資産の増加という繁栄は、富裕税について年ごとに申告される資産上の数値などからわかる。にもかかわらず、今回の大統領選の何人かの候補者たちが、金融資産を対象にした富裕税の廃止を検討していることは、理解しがたい。さらに言えば、給与所得よりも金融所得の税を少なくしようとする理由もわからない。流動性を高めたいならば、財産取得で借金した世帯の固定資産税を減らすのが道理だろう。固定資産税は財産に課された最大の税であり、富裕税の税収は50億ユーロあるのに対し、固定資産税は300億ユーロに上るのだから。
(富裕層を優遇する対応は)政治資金の調達に対する「お返し」にも見える。こうした税制上の対応によって人々や地域の間で競争が進み、社会は調和し、万人が豊かになるという、いまだに本気で信じられている誤ったイデオロギーの結果でもある。はっきりしているのは、グル―バリゼーションの勝者だけに歩み寄り、フランスは逆進性の高い税金を望んでいると思われることは危険だということだ。いまは、自分たちは見捨てられていると感じ、排外主義の誘惑に引きつきられているときなのだから。フランスに不平等はないという考えとは、いますぐ手を切るべきだ。
(仏ルモンド紙、2017年4月16-17日付、抄訳)

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