3日 再生エネ送電網がネック

朝日新聞2017年4月30日4面:変わる電源構成 東京電力福島第一原発事故を経た日本は電力を何でまかなっていくか。太陽光や風力などの再生可能エネルギー(再エネ)は大きく伸びる余地があるが、送電網の能力の問題に直面する。一方、石炭火力は発電コストが「安い」と各地で計画が持ち上がるが、温暖化対策に逆行する。国や大手電力の姿勢が電源のチェンジを妨げている。
北海道・釧路湿原の南端。広大な空の下、紺色のパネル約7万枚が輝く。今年4月3日に本格稼働したメガソーラー「釧路トリトウシ原野太陽光発電所」(出力1万4500キロワット)だ。大手ゼネコン大林組の子会社「大林クリーンエナジー」として27カ所目の発電所となるが、社長の入矢佳史郎(62)は明かす。「ここの採算はよくない」 原発事故後の2012年7月、太陽光や風力など再エネの電気の買い取りを大手電力に義務づけた固定価格買い取り制度(FIT)が始まった。多くの事業者が、これでもうけられると太陽光中心にどっと参入した。
しかし、太陽光や風力は電気次第で発電量が変わっり、送電網の需要調整が間に合わなくなって停電するおそれがある。北海道の電力需要は少ない時で約300万キロワットだが、送電網へのメガソーラーの接続申請は13年3月時点で150万キロワット超に達した。
北海道電力は13年4月17日、需要調整に問題が起きるので、メガソーラーは40万キロワットまでしか買わないと発表。計画を見直す事業者が続き、「4・17ショック」と呼ばれた。ただ、北電は蓄電池などを取り付ければ買い取りは可能との見解を示していた。それで釧路町のメガソーラーは蓄電池を併設することにしたのだ。事業費約80億円のうち蓄電池費用は約2割。その分、採算は悪くなったが、入矢は言う。「ここで低コストの蓄電池の技術を確立して、ほかにも売りたい」
日本に風力発電を持ち込んだと言われる「グリーンパワーインベストメント」社長の堀俊夫(75)も嘆く。「FITに抜け穴ができた」東北では6カ所、計74万キロワットの風力発電所の計画を進めるが、東北電力は今年2月3日、風力の接続申し込みが接続可能な量(251万キロワット)に達し、今後の申し込みは無補償の出力抑制に同意することを前提にすると発表した。
巨費を投じて風力発電所をつくっても、金銭的な対価を受けられないおそれが出てきた。経済産業省が15年1月に行ったFITの運用見直しによる。電力がたくさんあるなら、大手電力をつなぐ地域間の送電線を使い、人口の多い地域に送る。そうすば風力や太陽光はまだまだ増やせるが、動きは鈍い。いま、北海道や東北ではすべての原発が停止中だ。
「大手電力は原発のため送電線に空きをつくっておきたいのだ」。再エネ業界にはそんな疑念の声がある。
石炭 温暖化対策に逆行  原発事故後、雨後のたけのこのように新設計画が相次ぐのが石炭火力だが、温暖化対策の面から中止しようという力とせめぎあっている。4月15日、千葉市。1997年の京都議定書をきっかけにできたNGO「気候ネットワーク」理事の平田仁子は、市内で進む石炭火力発電所の建設に反対する住民らを前に、3月に中止になった近隣の石炭火力計画の事例を紹介した。関西電力子会社と東燃ゼネラル石油(現JXTGグループ)の計画だった。
「本プロジェクトの事業性および事業環境の変化等に関する両社の見解を踏まえ、今後、事業化に向けた検討を継続しない…」。プレスリリースは中止理由をそう簡単に記した。だが、平田はこう解説した。「電力需要が伸びない中で、数千億円もの投資をしても回収できないとみた」。石炭火力は、最新型でも天然ガス火力の約2倍の二酸化炭素(CO2 )を出す。将来的にCO2規制が強まって採算がとれなくなるという考えもあったのでは、というものだ。
平田らによると、12年以降に持ち上がった石炭火力の計画は49基。背景として、平田は安倍政権が14年の「エネルギー基本計画」で、原発と石炭火力を需要なベースロード(基幹)電源に位置づけたことが大きいとみる。
だが、地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」が昨年11月に発効して、日本も温室効果ガスの大幅削減を求められる。米トランプ政権は協定脱退をちらつかせるが、英仏など多くの国は石炭火力の廃止に向けた政策を打ち出している。平田は「このまま石炭火力の計画が進めば日本は明らかに設備過剰になる。石炭火力への投資は『損をする』選択だと訴えていきたい」と語る。
 原発ごみ行き先なく 石炭火力とともに、政権がベース電源と位置づける原発は、運転を続けるうえでのハードルが山ほどある。喫緊の課題の一つが、発電後に出る使用済み核燃料の置き場所だ。4月25日、福井県庁7階の会議室。知事の西川一誠(72)と関電社長、岩根茂樹(63)が向き合った。西川は高浜原発3.4号機の再稼働の流れを聞いたうえで、関電が約束した使用済み核燃料の中間貯蔵施設の進む具合をただした。
「1年半が経過したが、いまだに具体的な姿が見えない。この問題が解決しなければ、原子力発電の基本がなりたたない」福井県内にある関電の美浜、大飯、高浜の3原発の敷地内にある使用済み核燃料の保管プールは満杯が近づく。関電がめざす9基全基の稼働が実現すれば、あと6.7年で埋まる。保管場所がなくなれば原発の運転を止める事態もありえる。
西川はかねて関電に使用済核燃料の中間貯蔵施設を県外につくるように求めてきた。これに対し関電は15年11月、「20年ごろ建設用地を選び、30年ごろに稼働する」と表明した。だが、その後の進展がみえない。西川の口ぶりからはいらだちもみえた。
岩根は「中間貯蔵は最重要課題。計画地点の確定に不退転の思いで取り組む」と意気込みを示したものの、具体的な成果は示せなかった。担当の部長職を置き、保管場所の候補地になりそうな地域への説明を5千回以上も重ねたというが、見つからない。
電気事業連合会によると、国内の原発の使用済み核燃料は今年3月末時点で1万4870トンにのぼり、燃料プールや貯蔵施設の容量の7割を超える。政府は30年後の電源構成に占める原発の割合を20~22%にする目標を掲げるが、「原発のごみ」で立ち行かなくなる可能性がある。
「日本において処分場のめどをつけられると思う方が楽観的で無責任すぎる」。脱原発を唱える元首相・小泉純一郎(75)の言葉が重くのしかかる。
=敬称略 (伊藤弘毅、小森敦司)

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