29日 29連勝 藤井四段新記録

朝日新聞2017年6月27日27面:作家 大崎善生さん寄稿 定跡とらわれぬ思考×終盤力 圧倒的 加速する14歳
プロデビューから半年、驚異の戦績を上げる藤井総太四段(14)の強さの源はどこにあるのか。長く将棋界をみてきた作家の大崎善生さんが、21世紀生まれの超新星について考える。
藤井総太四段の快進撃が一向に止まらない。それどころか連勝を重ねるたびい加速していく感がある。世の中はまさに藤井フィーバーの真っただ中。羽生善治七冠誕生のときも羽生一色に染まったが、今回は実感的にそれを超えている。まだ中学3年生、14歳の少年が、その旋風を巻き起こす台風の目ー。
5月末に愛知県瀬戸市の藤井家を訪れた。当時はデビュー以来19連勝中で、どうしてこんなことが起こっているのか、母親や本人に会って確かめてみたくなったのだ。藤井君に会ってみて思ったのは本当にどこにでもいるような、頭のいい中学生という雰囲気だった。羽生善治や谷川浩司をはじめとした多くの天才少年を身近で見てきた私はまずそのことに拍子抜けした。こちらの質問にひとつひとつ言葉を選びながら答えてくれる。言葉に詰まることも多いが、待っているとゆっくりと考えてくれる。
そこは羽生、谷川ら多くの天才たち特有の閃きや切りつけるような感性の刃のようなものは感じない。賢い中学生。そのままの姿である。しかししばらく話しているうちに、逆にだから凄みなのだ。
本人はだたニコニコしている。お母さんは少し心配そうにそんな姿を見守っている。この母と子のどこにでもある姿こそ藤井将棋の原風景なのではないか。
藤井将棋の最大の武器は、圧倒的な終盤力にあると言われている。その力はプロ棋士のトップに入っても桁違いという。しかしインタビューに答えてくれた師匠の杉本隆七段によると、その最大の武器をデビュー以来まだ本格的には使っていないという。使う必要もないということだ。藤井にほうが序中盤で優勢になり、そのまま押し切るというパターンが続いている。
1年半ほど前に奨励会員だった藤井は関西の若手棋士から将棋の研究にコンピューターソフトを導入することを勧められた。その提言を藤井は何の抵抗もなく素直に受け入れた。プロ棋士にはまだ感覚的に研究にコンピュータを使うことに抵抗感がある人も多い。しかし藤井は感想戦で、「のこ局面はどう指せばいいのか解らなかったので、あとでコンピュータに教えてもらいます」。
このコンピュータの導入をきっかけに藤井の将棋は明らかに強くなっていったという。主に序中盤の感覚的な部分をコンピュータにヒントを貰い、自分の将棋の隙を埋めていくという作業を延々と続ける。互角かそれ以上でいれば、あとは誰にも負けない終盤力がある。
5歳の頃から鍛えに鍛えた、詰将棋の解図力を軸にした圧倒的な終盤力と、コンピュータという無機質なしかしそれであるからこそ、定跡という偏見や錯覚のない思考が、一人の少年の頭脳の中でがっちりと手を組んだ。そして藤井総太というモンスターが誕生した。
しかしとはいえ、藤井の棋士人生はまだ始まったばかりで、これからいくつもの壁が待ち受けることだろう。その壁をどうやって乗り越えていくのか。そんなことにもわくわくする。
私はかつて新聞のインタビューに「藤井君には”圧倒的な棋士”になって欲しい」と答えた。それからわずか1カ月。すでにそうなっている、あるいはそれを超えているかもしれない現実には驚かしかない。(寄稿)

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る