28日 てんでんこ 南海トラフ9

朝日新聞2017年2月24日3面:「お母ちゃんは足悪いけん、置いて山に逃げよ」「一緒に死んじゃるけん」 高知県黒潮町役場に入ると、柱に色紙が掲げられている。日本一の津波高が発表された5年前、町内の女性が作った短歌だ。
大津波 来たらば共に 死んでやる こょうも息が言う 足萎え吾に 町行政人事係長だった友永公生(45)が2012年11月、町の芸術作品展で見つけた。津波対策を重ねてきたつもりだったが、「これが現実だ」と衝撃を受けた。
友永は防災関連の学術誌に寄稿を頼まれていた。短歌を紹介する許可をもらおうと、作者の秋沢香代子(84)を訪ねた。家族で精肉店を営んでいるが、7年前に外出先で転倒し、右足が不自由になった。想定の発表をニュースで知り、同居する次男の良秀(62)に言った。「お母ちゃんは足悪いけん、置いて山に逃げよ」。良秀は「一緒に死んじゃるけん」と答えた。こんな家族がいると知ってほしいと、趣味の短歌にぶつけた。
「対策するけん、命を大切にしれよ」。友永が帰り際にかけた言葉に、香代子は「死んだらいけん」と思い直した。14年3月、伊予灘で地震が起き、黒潮町も震度4を記録した。津波はなかったが、多くの町民が高台に逃れた。友永は、香代子の孫で役場の住民課にいる悠(29)に「おばあちゃんは高台に逃げてくれたろうかね」と尋ねた。悠の話を聞いた香代子から9月、友永に手紙が届いた。「一番に逃げました。命は守って行きます」と記し、歌が添えてあった。
この命 落としはせぬと 足萎えの 我は行きたり 避難訓練  昨年11月の夜間避難訓練では、何分かかるか試そうと、近くの津波避難タワーまで杖をついて歩いた。防災などを話題に、友永との文通が今も続く。「友永さんが町のことを考えてくれよる。私も流されてたまるか」
友永は今、産業推進係長。第三セクターの黒潮町缶詰製作所に関わる。おいしい非常食を、と作る「四万十うなぎひつまぶし」「黒潮オイルのごろっとカツオ」などの缶には、津波高にちなみ「34M」のロゴ。営業に走る友永のかばんには「僕のお守り」という香代子の手紙が入っている。
(佐藤達弥、黒沢大陸) ■備え 命を守りたい。思いをもって向かい合えば、そこに共感が生まれる(群馬大の片田敏孝教授)

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