27日 てんでんこ 南海トラフ 8

朝日新聞2017年2月23日3面:逃げるかどうかは生活の延長線上にある。一人一人の事情を受け止めて。 海辺のラッキョウ畑に薄紫の花が咲いた。2012年11月、高知県黒潮町万行地区。京都大大学院生の中居楓子(26)が住民に避難行動の聞き取りを始めたが、地域につてがなく、調査は難航していた。 「1人で大変だね」。中居をみかねた副区長の澳本準一(69)が相談に乗った。地区にある町民館の館長、徳広幸雄(62)に声をかけ、2人が交代で中居と一緒に歩いた。
徳広は館長7年目。若いころは国民年金の掛け金集めで地域を回っていた。訪問先で顔なじみの住民と話が弾む。戦時中の空襲、終戦翌年の昭和南海地震・・・。調査と無関係な話が時に2時間続き、仲居は眠くなった。
「自分の調査ばかりしようと思いやせんかね」。次の家に向かう路上で、徳広は中居に言った。「逃げるかどうかは生活の延長線上にある。普段から足が痛うて閉じこもりがちな人で、家族の足手まといになりたくないから『逃げない』と言う人もいる。一人一人の事情を受け止めて防災を考えないかんぜ」
諭された中居はまず相手の話を聞き、最後に調査の質問をするやり方に変えた。町民館がお年寄りを集めて企画する花見や紅葉狩りに参加し、知り合いの輪を広げた。路上で小学生の鬼ごっこに加わり、親を紹介してもらった。入院などで不在の家を除く全251世帯の聞き取りを終えた翌春には、町を歩くと気軽に声をかけられるようになっていた。
中居の調査を元に、教授の矢守克也(53)、畑山満則(48)らが、地区を襲う津波と住民一人一人の避難行動をコンピューターで予測、被害と対策の成果を試算した。
「一切対策をしないと、住民600人のうち津波に追いつかれる人は180人。家の耐震補強や非常時持ち出し袋の事前準備、足の不自由な人を近所の人が車に乗せるなどの対策をすれば、20人まで減らせる」。畑山は説明する。町民館で5回にわたって防災勉強会を開き、住民と語り、対策を促した。澳本家に15年2月、初孫が生まれた。中居に家でコーヒーをごちそうしてきた妻が「楓子ちゃんの名前をもらおうよ」と提案し、そう名付けた。「孫の楓子もみんなに愛される子に育ってほしい」 (佐藤達弥)
備え リスクを誰が伝えるか。専門家より、孫世代の子の方が効果的なこともある(矢守克也教授)

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