25日 ピケティコラム

朝日新聞2017年3月22日17面:「公貧」と「民富」激変回避へ再配分の道探れ いまフランス経済を語るうえで、避けて通れない二つの現実がある。一つは公的債務の大幅な増加、もう一つは民間の財産が増え続けていることである。このところ、経済をめぐる議論は二つの現実に左右されているが、両者を結びつけて考えることは忘れられがちだ。
公的債務の大きさはよく知られるところ。1970年代には、国民が1年に手にする所得を足し合わせた国民所得の30%そこそこであったのに、今やおしなべて100%に達している。つまり、ほぼ年間の国内総生産に相当する。
第二次大戦からこの方、最大級の負債の水準であり、この問題を過小評価するつもりはさらさらない。こうした借金を通常の手段で削減するのは、歴史的な経験からも難しい。だが今こそ、課題とその解決策をよりよく理解するために、巨額債務という現実を「公と民」の所有構造と関連づけ、とらえ直すことが大切なのだ。
簡潔にまとめてみよう。ある国で所有される財産の総体は、公的な資本と民間の資本に分けられる。公的資本とはすなわち、政府や自治体など、さまざまな公的機関が持つ土地、建物、インフラ、債券や株式などの総資産から負債を差し引いたものであり、民間資本とは家計が持つ資産と負債の差である。
45年から75年まで、栄光の30年と呼ばれるフランスの経済成長には、公共資産が充実していた。戦後、銀行や電力・ガス会社などの国有化で生まれた大規模公的セクターによって、公共資産は国民所得と同じか1.5倍もの水準で負債を上回っていた。そもそも当時の負債は国民所得の30%以下、歴史的にも低い水準だった。これは、インフレや負債の帳消しに加え、戦後10年続いた民間資本への特別課税の結果である。全体として、負債を差し引いた公的資本は大幅な黒字であり、国民所得のざっと100%、つまり同等の水準であった。
70年以降、この状況が一変する。80年前後に始まる民営化の動きによって、公的資本は国民所得と同程度で停滞することになる。不動産価値や株価が上昇したにもかかわらず、である。同時に、公的債務が国民所得の水準に近づいた結果、資産から債務を差し引いた公的資本はゼロに等しくなる。2008年の金融危機の直後には、すでにイタリアで公的資本がマイナスになっていた。
15~16年の最新データによると、米国、日本、英国でもマイナスになったと分かる。以上の4カ国では、かりに公共資産を丸ごと売却したとしても負債を返しきれないということだ。フランスとドイツでは、公的資本はかろうじてプラスである。
ただし、上記の富裕国が貧しくなったわけではない。貧しくなったのは富裕国ではなく、その政府であり、この二つはまったく別の話である。実際、負債を除いた民間の財産は同時期、各国で劇的に増加しているのだ。1970年代には国民所得の3倍だった民間資産が、2015年にはすべての富裕国において国民所得の6倍に近いか、それさえ超えている。
民間の財産がこのように豊かになった背景には、いくつかの要因がある。まずは主要都市に人口が集中したことによる不動産価格の上昇、さらには人口の高齢化と低成長の結果、過去の貯蓄が機械的に増大し、今日の収入と比べて資産価格を膨らませたことがある。そしてもちろん、公共資産の民営化、負債の増加も無視できない。その負債は、銀行を通じて国債などの形で民間セクターの手中にある。これらの要因に加え、世界の経済成長をしのぐスピードで拡大する金融資産と、それがもたらす巨利がある。不動産や知的財産について、民間所有により有利な方向で、世界の司法制度が進展していることも挙げられる。
いずれにしても、民間資本の増加幅は公的資本の減少幅を上回り、富める国は互いの資産を持ち合っている。富裕国は、世界の残りの国々においても金融資産を所有しており、逆のケースは多くない。
こうした民間の繁栄に対し、どうしてこれほど悲劇があふれているのか。それは政府が、イデオロギーと政治の力に妨げられて、グローバリゼーションの恩恵に浴する人々の収益を公平なものにできていないからである。公平な税制が実現できそうもないと分かっているから、ついつい逃げて借金に頼ってしまうのだ。金融や資産の面で、過去にないほど各国が相互依存を強めていることから、無力感は強まるばかり。とりわけ欧州では、一国の債務を周辺国が(国債などの形で)持ち合うのが常態で、コントロールを失った感が深い。
歴史上、所有構造が大きく変化する時は、しばしば政治体制をひっくり返すような激変となった。フランス革命、南北戦争、前世紀の2度の大戦、フランスでいえばナチス支配からの解放がそうだった。
いまも、勢いづくナショナリズムによってユーロが自国通貨に戻り、インフレが起こることもある。そうすれば一定の再配分ができるだろう。とはいえ、そうした再配分は多少なりとも混乱をもたらす。社会を激しい緊張状態に陥れ、政治的な対立が民間問題に発展するといった代償を払うことになる。
現状から導かれるこの致命的なリスクを前に、解決策は一つしかない。袋小路から脱し、法治国家の枠内で必要な再配分を実現できる、民主的な道を描かなくてはならないのである。(Le Monde、2017)(仏ルモンド紙、2017年3月12-13日付、抄訳)

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る