25日 小さないのち 道に潜む危険【3】

朝日新聞2017年2月21日35面:1歳歩き始めた矢先 ふと気づいたら外へ 幼児期の一人歩きの交通事故が後を絶たない。成長著しい時期だけに、思わぬ危険に遭うことも。どんなことに気を付ければいいのか。
長野県小諸市の母親(29)はアルバイト募集の案内を見て、「これなら私もできる」と考えた。子どもを連れて働ける環境が整っているとあったからだ。車で契約先を回り、パンを売る仕事で、勤め先は家から車で10分ほど。少しでも家計を助けたかった。
働き始めて1ヵ月後の2014年7月の朝。母親は長女(6)を幼稚園に送った後、1歳2ヵ月の次女・松本佳桜(かお)ちゃんを連れて出勤した。ほかにも母親が働いていて、この日は佳桜ちゃんと同じ年頃の子もいた。
パンをかごに並べる約15分間の作業中、佳桜ちゃんを視野に入れるように気をつけていた。だが、ふと気がつくと姿が見えない。いつもは閉まっている事務所の出入り口の引き戸が、この日に限って開いたままになっていた。
佳桜ちゃんは歩けるようになったばかり。外へ探しに飛び出すと、見知らぬ女性が「お母さんですか」と声をかけてきた。小さな子が車にはねられたという。佳桜ちゃんだった。
裁判記録によると、現場は事務所から20メートルほどの交差点。信号機や横断歩道はない。佳桜ちゃんは歩道から車道に出たところを、左折しようとしたトラックにはねられ、亡くなった。
「私がアルバイトをしなければ。嫌がっても抱っこをしていたら・・・」 夫(36)は高校教員で、休日も部活動の指導に忙しい。母親は買い物でも公園でも娘を1人にしないように目を配ってきた。危ないと感じたことは日記に書き込んでいた。それでも思いがけず、事故は起きた。
「小さなことが重なって事故は起きてしまうのだということを伝えたくて、取材を受けました」
運転手ミラー見ず このトラックの男性運転手(61)は交差点にさしかかる前、スリッパを持った佳桜ちゃんが左手の歩道にいるのを見かけていた。配送会社の運転手になって約30年。通い慣れた道だった。交差点を曲がればあと少しで配達先だった。小さな子がなぜ1人で歩いてりうのかとは思った。「まさか、車の近くまで来ないだろう」と思い込み、前輪の周辺を映すミラーは確認しなかった。ハンドルをゆっくり左に切った。
「子どもに気付いていたのに注意が抜けてしまった。ミラーを見ていれば、こんな悲しいことにはならなかった」。男性は取材に後悔の気持ちを語った。
当時は同居する長男が仕事で悩んだ末に1週間も家を空けていて、心配ごとを抱えての運転だった。事故後、男性は運転手の仕事を辞めた。佳桜ちゃんの月命日に、事故現場とお墓に足を運んでいる。(板橋洋佳)

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