22日 てんでんこ 南海トラフ【5】

朝日新聞2017年2月20日3面:2番目だったら誰も注目しない。日本一の防災でマイナスをプラスにしよう。 南海トラフ地震の被害想定が公表されてから1年がたった2013年春。日本最大の34.4メートルの津波が想定された高知県黒潮町の町長の大西勝也(46)は、急いで進めてきた対策の方向性が正しいのか不安を感じていた。
秘書役の行政人事係長だった友永公生(45)に「外部の人に意見を聞きたい」と話すと、防災担当の経験がある友永は「片田先生がいいんじゃないでしょうか」と答えた。 群馬大教授の片田敏孝(56)。災害社会工学の専門家だ。04年から岩手県釜石市で防災教育に携わり、東日本大震災では市内の小中学生のほとんどが津波の被害を免れた。
友永は以前、片田の講演を聴き、住民の意識変革が必要との主張に共感していた。片田は震災後、年200回の講演に追われていた。大西は「どこでもいいから会ってくれませんか」と頼み込んだ。片田が公述人として国会に出席する4月11日、東京で時間をとってくれた。国会にほど近い高知県東京事務所の一室を借り、顔を合わせた。
「町民を守る自信がない。防災をどう進めたらいいでしょうか」。大西は打ち明けた。対策を説明すると、片田は全職員に地域を割り振り防災活動を支援する「地域担当制」に疑問を投げかけた。たとえ誰も逃げていなくても率先して避難する必要がある。そんな強い意志を持った行動がとれるよう住民の心を動かせる職員がどれだけいるのかー。
「人にこびない先生だ」。本年で話す片田に、大西はかえって引きつけられた。「黒潮町の防災に関わってほしい」。頼んだが、多忙な片田は首を縦に振らなかった。日が暮れ、銀座の土佐料理店に移り、話を続けた。カツオのタタキと地酒を前に、大西は冗舌になった。「うちのカツオは日本一」。特産のラッキョウ畑では秋に薄紫の花が咲き誇る。「桜より美しい」と自慢した。
この人は本当に町が好きなんだな。片田は感じた。命を救うはずの津波想定が、あきらめを生んだことへの怒りもわき、口走った。
「町長、津波が日本一でよかったやないか」。あっけにとられる大西に続けた。「2番目だったら誰も注目しない。日本一の防災でマイナスをプラスにしよう」(佐藤達弥)
備え 津波防災は海の恵みをもらい、その地に住み続けるためのお作法なんだ(片田敏孝教授)

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る