21日 愛と死をみつめて【下】

東京新聞2017年2月19日2面:笠智衆になりたい 「愛と死をみつめて」では、吉永さんにとってとても大切な出会いが、いくつかあった。
まず、笠智衆さんだ。ヒロイン、ミコの父親役として出演した笠さんとは、これが初めての共演だった。1904年生まれ、当時60歳だった笠さんは「東京物語」(53年)をはじめ、松竹の小津安二郎監督作品の父親役などで知られる名優だ。日活の「愛と死をみつめて」に出演したのは、松竹出身の斎藤武市監督の人脈もあっただろう。「笠さんは本当に素晴らしくて優しくて、私は今もずっと『女・笠智衆』になりたいと思っているんです。それを言うと、山田洋二監督に笑われますけど」吉永さんが楽しそうに話す。
映画の中のイメージそのままの飾らない人柄に加え「素晴らしい芝居」に感動したという。「私(ミコ)が、手術で顔を大きく切り取らなければならないことを病院で相談した後で、お父さんを大阪の駅に送りに行くシーンがあるんです。列車に乗ったお父さんに、私が手を振ると、お父さんも笑顔で手を振る。その後、列車が走りだして一人になった笠さんは、手をさりげなく顔に持っていって涙を隠すんです。娘に対する思いを、全部そこで表現されるんですね。その芝居が素晴らしくて。今回見直して、また、いやあすごいなあ、と感心しました」
絶望的な状況に耐え、けなげに振る舞う娘。父親はその心情を思い、胸が張り裂けそうになる。だが、それを口に出すことはできない。そんなつらさが伝わってくる。
「この作品での、笠さんの印象は強烈でしたね。それ以来、せりふがなくても、たとえ背中だけでも、いろんなことが表現できるような俳優に究極的にはなりたい、と思っているんです」翌年の「四つの恋の物語」など、笠さんと吉永さんは、その後何本も映画で共演する。最期の共演になったのは、89年のフジテレビのドラマ「春までの祭」だった。
「山田太一さんの脚本で、これが笠さんの最後のテレビ出演になるということで、出させていただきました。笠さんは義理のお父さん、嫁としゅうとのドラマでしたね。初めてお会いした時と同じように、とてもいいコミュニケーションでお芝居がやれらと思います」
「愛と死をみつめて」では、同じ病室の入院患者を演じたミヤコ蝶々さん、笠置シズ子さん、北林谷栄さんらの大ベテランたちとの共演も「めちゃめちゃ楽しかった」という。さらに、ミコのモデルになった原作者の大島みち子さんの遺族との出会いもあった。
「撮影終了後、しばらくして、兵庫県西脇市のみち子さんの実家を訪ねる機会があったんです。お父さん、お母さん、妹さんが歓迎してくださって『今日一日、みち子になってください』とおっしゃって、みち子さんの赤いかすりの着物を着せていただき、ご一緒に過ごしました。みち子さんのお部屋で一泊して、翌日は妹さんと二人で加古川の土手を散歩。映画の中でも歌った西脇高校の校歌を歌いました。忘れられない思い出ですね」
「愛と死をみつめて」は、東京五輪を約1ヵ月後に控えた64年の9月19日に公開された。直後、吉永さんは、フジテレビのドキュメンタリー番組出演のため、欧州に向かった。東京・羽田空港で吉永さんと合流したのは、番組プロデューサーを急きょ任じられたという同局のディレクター、岡田太郎さんだった。9年後に夫となる人だった。映画の外の現実でも、大切な出会いが始まっていた。(聞き手=立花珠樹・共同通信編集委員)

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