2月4日てんでんこ 首長たち「4」

朝日新聞2018年1月26日3面:「いいんだ。俺がサンドバッグになっていれば」。町長は教育長に言った。 住民票の転入届を受けつけていない町が、日本に二つだけある。東京電力福島第一原発が町内にあり、いまも全域に避難指示が出ている2町、福島県の大熊町と双葉町だ。結婚相手が町民などの例外を除き、転入はできない。1月1日現在で大熊町に住民登録している1万533人のうち、2561人が県外の38都道府県に避難したままだ。東京都には255人がいる。
町長の渡辺利綱(70)は、復興構想や生活支援策などを決めるたび、県内外で説明会を開いた。担当職員とマイクロバスで移動し、開催地は20カ所に及ぶときもあった。将来が見通せないいらだちから、会場で怒号が飛ぶことも珍しくなかった。「いつ帰れるかもわからず、仮設住宅でこのまま死ねというのか」
「構想は立派だが、帰れる人は一部だ。そのために町のカネをつぎ込むのか」見かねた町教育長の武内敏英(73)が説明会のあと、渡辺に「黙って耐えていなくてもいいのに」と言葉をかけたことがある。「いいんだ。俺がサンドバッグになっていれば」。渡辺は、町民の腹立ちを痛いほどわかっていた。一方で、批判の矢面に立って肩を落とす職員たちのことも案じた。帰りのバスにコンビニで買った酒とスルメを持ち込み、こう元気づけた。「飲んで帰るべ」
副町長として8年間支えた鈴木茂(69)は、渡辺の別の顔をこう語る。「国との交渉事が進まないと、われわれ事務方は『この辺りで手を打つか』となりがちだったが、待ったをかけるのが町長だった。国の政治家や役人が相手だと、引かなかった」帰還の見通しが立たないとして、2014年春、放射線量が高い帰還困難区域の住民に対して、新たに700万円の慰謝料の支払いが始まった。渡辺は「ほかの区域の住民との分断が起きかねない」と国に迫り、前住民への支払いを認めさせた。「今日は、駆け引きなしでサドンデスで議論してくる」。渡辺が、そう言って東京に出向いたのを鈴木は覚えている。
翌15年秋が、町長として2期目の任期の終わりだった。渡辺の腹は決まっていた。町の復興のレールは敷けた。自分は退き、あとは若い人たちに託そう。
(池田拓哉)

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る