15日 問う「共謀罪」

朝日新聞2017年6月11日38面:哲学者 内田樹さん(66)うちだ・たつる 神戸女学院大名誉教授。専門はフランス現代思想。著書・共著に「街場の文体論」「日本の反知性主義」など。
政府の狙いは隣人を密告するマインド 隣人に目を光らせ、お上に告げ口する。「共謀罪」がある社会とはー。
仏紙ルモンドが5月下旬、「共謀罪」法案について報道した。懸念を表明する国連の特別報告者に日本政府が抗議したことに触れ、「驚くべき反応である」「日本は国際法の順守をこれまで強く訴えてきいた」と非難した。安倍政権の支持率は落ちなくても、日本の国際社会の評価は下がりっぱなしだ。
この法案に「いつか来た道」を懸念する声もある。でも、僕はそう簡単に再来するとは思わない。戦前の警察組織とは敗戦で断絶しているし、思想警察をつくって社会全体を監視するにはヒトもカネも足りない。反基地運動や労働運動を一網打尽にするために使おうか、という程度だろう。
政府が狙うのは「隣人を密告するマインド」の養成だ。「共謀罪」を必要とする前提には、テロリストだけではなく、外国の意をくんで政府の転覆を諮る「半日分子」がいるという認識がある。政府には網羅的に検挙する能力がない。ならば、お上に代わって我々国民が摘発しよう、となる。
政府を批判するメディアや市民のバックに、中国やコミンテルンがいると本気で信じている人もいる。法案が成立した瞬間、自分たちの世界観が承認されたと思い、密告したり、排除したりする動きが出てくる。
注目すべきは、特定秘密保護法、安全保障法制を施行させ、いままさに「共謀罪」の成立を図り、そして憲法改正をめざす流れだ。立憲主義を空洞化させ、独裁化を進めているのは明らかなのに、有権者の半数ほどが現政権を支持している。
多くの日本国民には主権者としての意識がない。バブルが崩壊し、国連安保理の常任理事国入りに失敗した日本は、国家目標を見失った。理想を冷笑するニヒリズム(虚無主義)も広がっている。そんな人たちに、僕は日本の主権を回復しようと訴えたい。沖縄の米軍基地を縮小し、不平等な日米地位協定を改定する。誰もが共有できる国家目標を掲げ、ニヒリズムに対抗していかなければならない。(聞き手・岩崎生之助)

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