15日 オトナになった女子たちへ 益田ミリ

朝日新聞2017年5月12日29面:ふわふわ帰省の用意 ふわふわしている。こころの大半がもう新幹線のホームに立っている。連休前、新幹線のチケットを買ったとたん、東京にいるわたしは、少しずつ削られ始めていくのだった。会社に勤めていないので、休暇の調整は自由にできる身の上である。なのに、実家への帰省の日を決めたあとは、いつもなんだか落ち着かない。要するに、早く帰りたいのである。
気持ちが急いて、仕事の打ち合わせの後も、お土産ばかり見てまわっている。 甘いもの、辛いもの。
バランスよく買うのは自分のためでもあった。普段、手に取らないような、かしこまった菓子をここぞとばかり。実家への土産を、結局わたしが一番食べていた、というのもよくあることである。
帰省に合わせ、本もこつこつ買う。新幹線で読む用、夜に布団の中で読む用。実家では親の就寝時間に合わせ、夕飯も風呂も早くなり、そのぶん夜の余白が増える。
昨日も映画の前に書店へ。津村記久子さんの新刊エッセーと、青山七恵さんの文庫の新刊小説を買う。時間があったので喫茶店に入った。待て、新刊はまだだ。それで、読み返している途中だった荒木陽子さんのエッセー集「愛情生活」を開く。とたんにおなかが減ってきた。旅先でのおいしそうな食事の描写にくらくらした。
単純だが、旅に出たいなあという気持ちが湧いてくる。旅が好きだ。 今年は正月からひとり旅に出た。
鳥取、島根、福岡、小倉をまわり、船で1泊して大阪まで。 春には親戚らと山口県の岩国へと出かけた。わたしが旅のしおりを作り、さらには添乗員としても大活躍。たいそう盛り上がった。
実家というものが永遠にあるはずもない。故郷の大阪が旅先になる日が、わたしにもいつかはやってくる。
この原稿を送信すれば。いよいよ荷造りである。土産、着替え、本、山口旅行のときに撮った写真。あれやこれやと段ボールに詰めて実家へ送る。当日はからだひとつ。旅ではない、わたしの大切な帰省であった。
(イラストレーター)

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