14日 卒業ソングの季節

朝日新聞2017年3月12日36面:みんなで歌い涙・・・日本独特? 「歌は世につれ」といわれるが、100年以上歌い継がれてきた卒業ソングといえば「仰げば尊し」だろう。日本に伝わり、1884年(明治17)年、少学唱歌集に掲載された。原曲は不明だが、米国で出版された歌集に同じ旋律があったのを桜井雅人・一橋名誉教授が6年前に発見した。
同じく「蛍の光」も明治時代に小学唱歌になった。原曲はスコットランド民謡。歌詞の冒頭は中国の故事「蛍雪の功」に由来する。両曲とも中高年の支持が高い。だが「仰げば尊し」は2番の歌詞を卒業式で歌わない学校もあるという。「身を立て名をあげ」の部分が立身出世を強い、今の時代に合わないからという理由らしい。
それにしてもまぜみんなで歌うと感動が増すのか。『声の文化史』(成文堂)の著書がある早大国際言語文化研究所研究員でフリーアナウンサーの原良枝さん(58)は「声は、身体の中を巡ってきた呼気が発するもので、生々しい身体の一部。そこには霊的なものも含まれている。同じ歌を歌う安心感や声をころえて歌い上げる達成感が広がり、感動となっていくのではないか。感動が共振するのが卒業ソングなのだろう」と語る。
最近の卒業式では生徒の希望を尊重し、Jポップなどさまざまな歌が歌われている。バーチャルアイドル初音ミクの「桜ノ雨」も、10代の間では卒業ソングの「神曲」とされ、人気が高い。
卒業をテーマにした「大人のJ-POPカレンダー」(3月編)を出した日本コロンビアの担当ディレクター(50)は「昔の卒業ソングは『つらくても苦しくても一緒に歩いていこう』みたいな連帯感があったが、いまの若者は引いてしまうのでは。ネットや携帯電話の普及で別れの意識も変わっている」と言う。とはいえ、オリコンのランキングに、30年以上前に発表された尾崎豊の「卒業」が入っているのはおもしろい。学校や教師に反発しながらも前身でぶつかっていく「熱さ」を感じさせる歌である。26歳で生涯を閉じた尾崎が生きていれば51歳、どんな卒業ソングをつくるだろう。
テレビドラマの影響も大きい。「3年B組金八先生」の主題歌「贈る言葉」は、実際の卒業式でも歌われてきた。みんなでともに涙し、歌うというのは日本独特のセレモニーかもしれない。一般社団法人「日本記念日協会」の代表理事、加瀬清志さん(64)は言う。
「日本人は、日々の暮らしや人生に一つ一つ意味づけをして、目標をクリア(達成)していくのが好きな『クリア人』。卒業ソングも記念日と同じように通過儀礼的な意味合いがあるのではないか」
放送作家時代、担当していたラジオ番組の中では松任谷由美の「卒業写真」や斎藤由貴の「卒業」をよく選曲した。「1970~80年代の卒業ソングは、恋も別れも人生も、学校を舞台にした青春ど真ん中の歌という感じだった。だが最近は歌詞が抽象的というか形容詞が多い。励まし合うフレーズだけが独り歩きしているものが目立つ。学校の影が薄くなっているのでないか」と指摘する。(編集委員・小泉信一)

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