13日てんでんこ 熊本地震1年2

朝日新聞2017年4月12日3面:「何をぼやぼやしているんだ」。泉源がそう言っているように聞こえた。 熊本県南阿蘇村は昨年4月の地震で村の3分の1の建物が全半壊した後、6月下旬から豪雨に襲われ、全村で避難指示や勧告が連日発令された。山が崩れ、老舗旅館「地獄温泉・清風荘」は土石流に埋もれた。
社長の河津誠(54)ら「地獄3兄弟」が修理して再開が見えてきた旅館は、地震直後よりずっとひどい状態になった。パイプを直して入れるようにした温泉は泥の沼。泉源にも3メートルもの泥が覆いかぶさった。肩を落とす誠。しかしよく見ると、表面に指一本入るくらいの穴があちこちに開いていた。泥を突き破り呼吸をするように、ボコボコと湯が湧き出ていたのだった。「何をぼやぼやしているんだ」誠には、そう聞こえた。
創業は江戸後期。地震でも倒れなかった本館は明治時代に建った。昭和以降に普請した壁は落ち、明治に塗った土壁が露出した。壊れた排水溝を治そうと掘ってみると松でできていた。「これは江戸時代だろう。道路もない時代、周囲の山から木を切り、祖先は大変な苦労をしてこれを建てた。そう思えば」背中を押されることは、他にもあった。
真琴は木造の本館を守りたかったが、早く土砂を出さないと、柱が腐ってしまう。7月、約200人のボランティアや近所の住民が駆けつけた。3日がかりで土砂を出し、床をすべてはがし、柱や骨組みを拭いて、アルコールで消毒してくれた。
建物や温泉の復旧に取りかかりたいが、ここにつながるすべての道路が崩落などで重機が入らない。「早くしてくれよ」。いらだっていた誠だったが、ある日、工事中の道に許可をもらって入り、旅館に向かう途中、命綱一本で崖にぶら下がって作業する人々を見て、考えが変わった。「我々のためにあんな危険なことを。無理は言えない。再建したら、まず作業員を招待したいなあ」
今年中には、せめてトレッキング客用に日帰り温泉を再開し、その後食堂、宿泊と、少しずつ復活していけないかと誠は思う。だが心配は今年の梅雨。温泉の裏には高さ70メートルほどの土砂崩れの跡があり、巨岩がいくつも露出している。何とか耐えてほしい。
村内の宿泊施設は大半が被災した。再建支援を行政に求めるため業者を束ねたのは3兄弟の次男、謙二(53)だった。(東野真和)

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